28 新しい仲間
お目当ての歴史書の貸出手続きを終えたところで、イザベラは協会の中にリアムの姿を見つけて歩み寄った。
「ごめんなさい、お待たせしたかしら?」
「いや、今来たところだ」
「では、早速行きましょう」
「?…ああ」
リアムに何か言われる前にさっさとギルド協会を出て、足を進めるイザベラ。
少し後ろを歩いていたリアムがイザベラの持ち物に気付いたらしく、声を掛けてきた。
「その本は…」
「この国の歴史書よ」
「……なぜそんなものを」
「魔王のことが知りたかったの」
「魔王の…?」
「ええ、貴方にはまだ言ってなかったわね。私の最終目標は魔王を攻略することなの」
恋愛的な意味で、と言葉は心の中でだけ付け足す。
「魔王を、攻略…?」
全く予想だにしていなかったらしく、イザベラの言葉を繰り返したリアムの声は純粋な驚きの色を示していた。
「…興味なかったかしら?」
「……いや、…なるほど。それで仲間を…」
イザベラが足を止めて振り返ると、リアムは思案するように顎に指を当てていた。意外に脈アリか?
黙ってリアムの返事を待つイザベラ。じっとリアムの顔を伺っていると、一瞬リアムの赤い瞳が金色に染まったように見えた。
見間違いかと目を瞬くと、先程と変わりない赤色へと戻っている。
「……?」
「分かった」
「え?」
首を傾げたイザベラに、目線を上げたリアムとの視線が交わる。続けられた肯定は、何に対してだろうか。
「お前の仲間になろう」
「えっ?だって昨日は、」
「俺も旅の仲間を探していたところだと言っただろう?」
「そうだけど」
(そんな簡単にOKしちゃっていいのかしら?)
「なら、なんの問題もないはずだ。ところで、俺たちは今どこに向かってるんだ?」
「……そうね、細かいことは追々決めることにしましょう。もうすぐで着くわ」
あんなにも苦労した仲間集めだったが、上手くいく時は恐ろしいほどスムーズに進むものなんだなあと無理やり自分を納得させながら、イザベラは毎日薬草を採取しているポイントまでリアムを連れて行く。
「着いたわ」
「なんだここは」
「薬草の採取スポットよ」
「は?」
「今日はまだ薬草摘めてないのよね、せっかくだから手伝って頂戴」
「は…?」
不満顔のリアムを付き合わせて、イザベラは毎日のルートを巡ることにした。
◇
渋々とながらも薬草を摘んでいるリアムが思い出したように顔を上げる。
「おい」
「なにかしら?」
「出発はいつにする?」
「いつって…え、まだ無理よ」
「なぜだ?」
「だって、最低でも白魔道士は必要でしょ?私回復魔法使えないもの。回復薬にも限界があるわ」
「不要だ」
「絶対いるわよ!だって私まだEランクなのよ?」
「さっさとランクを上げればいい」
「ランクを上げるにはDランクのクエストを受けなきゃならないの。私一人じゃ無理だって言われたわ」
「俺がいるじゃないか」
「だって貴方剣士でしょ?回復は誰がするのよ」
「だから必要ないと言っている。そこまで言うなら試してみるか?」
「ええ…?どうなっても知らないわよ…。」
「強情なやつだな」
「だって、…あ、待って」
「まだ何かあるのか?」
「クエストを受けるなら流石に師匠に相談しないとまずいわ」
「師匠?」
「ええ、黒魔道士として色々教わってるの。ランクアップのクエストに挑戦してもいいか確認しなきゃ」
「はあ…、本当に魔王を倒すつもりなんてあるのか?随分のんびりしたものだな」
「うっ…わ、悪かったわね…」
「まあいい。俺は宿屋に滞在しているから、クエストを受ける準備が出来たらそこに来い」
「分かったわ、ありがとう」
薬草を摘み終えたところでリアムとは別れ、イザベラはローザの元へと向かった。
「おかえりなさい」
「ローザ、頼みがあるのですが…」
「なに?」
「ランクアップのためのクエストを受けてもいいでしょうか?」
「随分余裕があるのね?」
「…うっ…」
「いいわよ。最終試験に合格したら、の話だけど」
「最終試験?」
ローザが嫣然と微笑みかける。凄まじい色香にあてられ、イザベラの頬が薄らと染まった。
「薬草を採って魔法薬を完成させるところまで、1時間以内で行うこと。範囲魔法は禁止よ」
今まで学んできたことを制限時間内に行えということらしい。通常であればどう見積もっても3時間は掛かるはずだった。
「……分かりました」
しかし今はやるしかない。自分だって何もせずだらだらと無為に過ごしてきたわけじゃないのだ。努力の成果を見せてやる!と、イザベラの心は燃えていた。
「そ、じゃあ夕食の支度をお願い」
明日は一発でクリアしてやるんだから!と決意を胸に、イザベラは夕食の支度に取り掛かった。




