26 まさかのデート
帰宅後、ローザに無事配達できたのかと尋ねられ、イザベラは目が泳ぎそうになるのを何とか堪えて頷いた。
そしていつもより早く割り振られた雑用が済み、借りた本も全て読んでしまったイザベラは暇を持て余したため、王都を散歩することにした。
魔法商店を出て、メインストリートにでも行ってみようかと路地に足を向けたところで、意外な人物の姿を見つけて立ち止まる。
その人物は丁度イザベラの居る方向に歩いていた。
「ロビンさん」
「…!……イザベラ」
イザベラが居ることに気付いていなかったらしく、ロビンは驚いてびくりと肩を跳ねさせイザベラの名前を口にした。
(名前、初めて呼ばれたかも…)
彼が自分の名前を覚えてくれていたことが嬉しく、イザベラは笑みを向ける。
「こんばんは。この辺りに何か用事ですか?」
「……いや…、お前の方こそどうしたんだ?」
「私は少し時間が空いたので、これから散歩に出掛けようかと思っていたところなんです」
「そうなのか。…良ければ少し、付き合ってくれないだろうか」
「もちろんです!」
(え?デートに誘われた?)
てっきりロビンからはあまり良く思われていないと思っていたのだが。予想外の誘いに二つ返事で頷く。
イザベラがロビンの傍に寄ると、ロビンはくるりと踵を返して先ほど彼がやって来た道を迷いなく歩き始めた。
(あれ?こっちに用事があったんじゃ…私を誘ったから別の場所に行くことにしたのかな?)
イザベラは疑問を感じつつも、特にそれを口にすることなくロビンの後に続く。
しばらく無言でどこかを目指して歩く二人。
(ロビンさん、最初に会ったときと違ってゆっくり歩いてくれてる…私のこと気遣ってくれてるのかな、嬉しい)
道中無言ではあったが、さり気ないロビンの優しさに気付き、心がほんのり温まるのを感じてイザベラは口許を緩ませた。
「ここを登る。足元に気をつけてくれ」
ふとロビンが足を止めて声をかけたため、イザベラが視線を上げると、目の前には木で造られた展望台が建っていた。
ロビンに続いて木の螺旋階段を登ってゆく。階段を登り終えると、周囲を見渡せるような少し広いスペースがあった。ロビンは先に着いており、木の柵に手を掛けて外へと目を向けている。
イザベラはロビンの隣に並んで立ち、同じ方向へ目を向けた。
「わ…、綺麗…!」
眼下には予想通り王都全体が広がっていた。流石は大都市、夜でも十分に活気があって人で賑わっており、街を歩く人の姿やたくさんの明かりは、まさに都市の夜景といったところだろうか。
イザベラはロビンがこのような王道ともいえるデートスポットを好むとは思っていなかったので、意外そうに彼を見た。
ロビンはイザベラの気持ちを知ってか知らずか、街へと目を向けたままである。
「ここに来ると、人々の息遣いを感じられる。」
「え…?」
「人の命は儚く美しい。この明かりはまるで彼らの生命の灯火のようだ。お前もそう思わないか?」
「そ、そうですね」
(思ってたのと違ったー!)
どうやらロビンの独特の感性が偶然にも王道デートスポットを選択してしまったらしい。
「……お前は、どうして俺に対してはそんな口調なんだ?」
「え?」
「ビルや、他の者に対してはもっとフランクに接している。違うか?」
「確かに…そうかもしれませんね」
「やはりお前にとっても俺は付き合いにくいと感じる存在なのだろうか。…よくそう言われるんだ」
「えっ、いえ、そんなことは…初対面で敬語だったから、その名残というか…じゃあこれからはもっとフランクに接することにするわね」
「ああ、ありがとう」
(うーん…やっぱり掴みどころがない人だなあ…)
どうやらそこまで彼に嫌われてはいないようだが、なんとなくコミュニケーションに噛み合わないものを感じる。
(もしかして…天然ってやつ…?)
その日は心ゆくまで、彼の言う生命の灯火を実感してから、現地解散となったのだった。




