25 二人の攻略対象者?
イザベラは、道も確認せずとにかく人の居ない方を目指して走った。
そして、人通りがすっかりなくなった路地裏でついに息が切れて足を止めたとき、背後から不満げに声を掛けられた。
「おい、お前…どこに向かってるんだ?」
「あ…」
(しまった、つい連れて来てしまった…)
ゼェハァと肩で息をしながら振り返ると、呼吸が全く乱れた様子もない涼し気な顔をした男が立っていた。
男はよく見るとかなり端正な顔立ちをしている。
(え…?カッコよすぎない…?なんで?今の攻略対象はロビンさん…よね?)
一瞬の間にあれこれ考えが過ぎり、間の抜けた表情で男を眺めていると、男の眉根が不審そうに寄せられた。
「聞いてるのか?」
「っあ、…えっと…助けてくれてありがとう」
「……どういたしまして」
「ごめんなさい。揉め事を起こしたくなくてつい…、え…貴方…もしかして」
男が自分を助けてくれたことに変わりはない。少々やり過ぎだとも思ったが、一応イザベラは礼を告げてから頭を下げた。
そして、下げた視線の先に留まった物に思わず目を見開く。
「なんだ?」
「貴方、冒険者!?」
「あ、ああ。そうだが…」
男の腰に下げられていたのは剣であった。つまり、剣士!物理職!前衛!今のイザベラにとって垂涎の的である。
食い気味に尋ねたせいで、男はすっかり引きながらも律儀に答えてくれた。
「あの、私仲間を探しているの。良ければ仲間になってくれない?」
「……は?」
畳み掛けるようなナンパに遭うことは想定の範囲外だったのだろう。ぎょっと目を瞠り、若干後ずさる男。
ようやく自分の気持ち悪さに気付いたイザベラが硬直する。
「ごめんなさい!急にこんなこと言われても困るわよね…。あまりにも困っていたものだから、思わず…」
「そう、なのか」
(しまった…仲間が欲しかったといえ、いくらなんでも先走りすぎた…)
既に脳内反省会を開催していたイザベラを前に、男は何やら困惑した様子で頭を掻いた。
「会って早々仲間も何もないだろ」
「仰る通りです…」
「…まあ、俺も丁度旅の仲間を探していたところだ。話ぐらいなら聞いても良い」
「本当!?」
「……ああ。ただ今日はもう日が暮れる。続きは明日にしないか」
「分かったわ、ありがとう!私はイザベラよ、よろしくね。ええと…」
「リアムだ」
「よろしくね、リアム」
互いに名乗り合い、その日は別れることとなった。
リアムとは、明日ギルド協会で会って話すことにした。
(どうして攻略対象っぽい人が同時に二人も現れたのかしら…。まあ、もしリアムと仲間になるなら彼の攻略は後回しね)
おそらくイザベラの予想では、キャラを攻略してしまうとその人物とは物理的に距離を置くことになるはずだ。
だからこそ仲間にするなら攻略対象者は除外しようと思っていたのだが…
(腕の立ちそうな剣士なんて…仲間にしたいに決まってる…!まあ、考えてみれば好感度を上げなければ、一番安心して傍にいてくれるかもしれないし)
都合のいいように考えを改めて、イザベラは帰路についた。




