21 ランクアップへの道
ローザに指摘を受けてから、イザベラは範囲攻撃をやめ、個別に弱点を探りながら戦う練習をしていた。
とは言っても、薬草を採るついでであるため、モンスターの討伐数自体はそこまで多くなかった。
関連する書籍もマメに図書室に借りに行き、ごり押しではなく頭を使って戦うことを意識する。
たったこれだけであるのだが、今までやってこなかったことばかりを行うことは、かなりの疲労感を伴う。
加えて、家事は相変わらずイザベラが全て担っていたため、毎晩倒れるようにベッドに沈み込んでいた。
そう、丁度今まさにそんな状態である。
「恋愛要素…遠ざかりすぎ…」
ぐったりとベッドに横になりながら、本来の目的である恋愛攻略について考えていた。
ロビンとは正直言って全く進展していなかった。
エリックの場合は彼に最初から気が合ったため、接触がなくてもそれも駆け引きと思うことが出来たのだが、ロビンはそうではない。
そもそも彼はイザベラに気がないのだ。その状態で接触を断てば、ただ疎遠になるだけである。
「でもなあ…あのタイプってきっとしつこく迫られるの苦手だろうしなあ」
アプローチしきれないのには他にも理由もあった。
何度か会話をしてみて思ったのだが、ロビンはどうやら人とコミュニケーションをとることがあまり好きではないようである。
仕事仲間とも雑談している様子はないし、客に対しても非常に事務的だ。
責任感が強く律儀であるため、決して拒まれることはないのだが、それが恋愛感情に繋がるとは到底思えなかった。
「うーん…どうやって落とせば…。ここは定石を踏むか」
やり込んでいた恋愛ゲームの流れを思い出しながら、イザベラはにやりと笑みを浮かべた。
◇
「私、ロビンさんに相談に乗って頂きたいことがあるんです」
「…はあ、なんでしょう」
業務中のロビンは敬語混じりであることが多い。それも距離をきっちり置かれている証拠であった。が、イザベラとしてはここで引くわけにはいかなかった。
現在イザベラはギルド協会のカウンターを挟んでロビンと向かい合っている。
「私Eランクなんです」
「知っている」
「ランクを上げたいんです」
「……無理だな」
「ど、どうしてかしら。理由を伺っても?」
下心を隠して相談に乗ってもらい愛を育もう作戦を決行したつもりだったのだが、早速座礁しそうな勢いである。
「Dランクに上がるためには、Dランクのクエストをクリアしなければならない」
「私の実力が不足しているということでしょうか?」
「実力不足というより、職業の問題だな。お前の職業は黒魔道士。ソロでの戦闘には基本的に向いていない」
「……そんな…」
相談内容自体は本当のものであったため、受けるダメージもわりかし大きい。だが、ロビンの言う通りイザベラがソロには不向きであることは確かであった。
最も得意である範囲魔法は複数の敵を前にしてこそ輝くのだが、能力が攻撃力に特化しているため体力や防御力が極端に低いのだ。
もし仕留め損ねて反撃を食らった場合、即死である。対ボス戦となれば、言わずもがなだ。
「やっぱりここから先はソロだと厳しいのね…」
「そういうことだ」
「あの、パーティを組む仲間ってどうやったら見つけ…いや、ここでは紹介して頂けないのでしょうか」
「仲間…?」
「はい。ソロで受けるのが厳しいのであれば、仲間と受ければ良いってことですよね?」
「まあ、そうなるな。確かにギルド協会には仲間を紹介する制度もあるが…」
「では、お願いしても?」
「……分かった。明日また同じ時間、ここに来てくれ」
「はい!また明日」
一度断られたときはどうなるかと思ったが、ロビンとまた明日会う約束もできた。その上新しい仲間も見つかるかもしれない。
(やっぱ冒険といえば仲間が必要よね!仲間とは途中で別れたくないから、攻略対象者じゃない方がいいのかしら)
ロビンの苦々しい表情は気になったが、それよりも今はランクアップへの道が開けたことにイザベラは心が躍っていた。




