19 料理上手を目指して
翌日も同じように朝食をローザと共にし、文句を言われながら外へ出た。
昨日と異なるのはイザベラが既に薬草の採取場所を把握しているということだけだ。
昨夜は夕食の片付けを済ませた後、借りていた本を全て読破した。情報は貴重だ。出来るだけ多く得ておきたい。
そのためにも今日は薬草を採り終えたらギルド協会の図書室へ向かう予定だった。
薬草を素早く摘み終えると、時間を確認し夕食の準備に間に合うよう急いでギルド協会に向かう。
相変わらず協会内は人で賑わっていたが、図書室まで足を向ける人は少ないようで、室内には誰の姿もなかった。
「今日は何の本を借りようかしら…」
本の分類をざっと眺め、どれも魅力的で悩んだがイザベラはひとまず料理の本を借りることにした。
ローザの店で暮らす以上、イザベラは料理から逃げられないのだ。あのローザが認めてくれる料理を早く作れるようになりたいとも思っていた。
比較的初心者向けのレシピを上限の5冊まで選んで手に取り、カウンターへと向かう。
今日は受付の中にロビンの姿があった。
迷わずロビンの居るカウンターに向かうと、端末から顔を上げたロビンと目が合う。
「こんにちは、ロビンさん。本の返却と貸出の処理をお願いします」
「ああ、もう読んだのか?……。」
「あ、あのっ。これは…師匠にご飯が美味しくないって言われて…」
差し出された本に無言で視線を落とし、なぜ料理の本を?と思ってそうなロビンに、思わずイザベラが言葉を紡ぐ。
(いやなんで自ら料理下手って言っちゃうかな私!)
自身の失態に気付いて頭を抱えそうになったが、予想に反してロビンは、ふっと小さく笑みを零した。
(あれ、笑った…。いいの?これ好感度上がったってこと?それともバカにされただけ?)
「そうか」
「はい…、また来ますね」
「またのお越しをお待ちしております」
ロビンからそれ以上の反応はなく、いまいち彼の真意を掴めぬまま義務的に追い出されてしまった。
どう挽回していいのかも分からず、イザベラは一礼してから席を立った。
すると、昨日本の貸出処理を行なってくれた男性に声を掛けられた。
「やあ、今日も来たの?イザベラちゃんだっけ?随分熱心だね」
「ええ、しばらく通わせて頂こうかと」
「そうなんだ!君みたいな美人ならいつでも歓迎するよ」
「それは…どうも、ありがとう」
このチャラさは絶対に攻略対象者じゃないだろうなあと内心思いつつ、イザベラは苦笑を返す。こんな風に今後も絡まれることがあるのだろうか、だとしたら絶世の美女のデメリットかもしれない。
(なんとかうまいあしらい方を覚えないと…)
なかなか立ち去ろうとしないその男性を前に、イザベラは指を自身の唇に添えて思案し始める。
すると、その間も何か話していたらしいその男性に、腰をぐいと抱き寄せられた。
(え、なに!?)
咄嗟のことに驚いて目を見開いたイザベラは、思いがけず至近距離にいた男を前に硬直してしまった。
「あーやっぱり、俺の話聞いてなかったでしょ?」
楽しげに笑いかける男に、思わずイラっとして口を開きかけたその時、カウンターから声が飛んできた。
「おいビル、いい加減にしろ。仕事中だ」
「おーこわ、そう怒るなよロビン。またね、イザベラちゃん」
イザベラより先に注意してくれたのはロビンだった。ビルと呼ばれた男はすぐにイザベラから腕を解き、降参という態度を取るように両手を掲げて肩を竦めてみせる。
イザベラはロビンに礼を言うべきか迷ったが、ロビンはすぐに二人から視線を外して次の客の対応を始めてしまった。
ビルに手を振って見送られ、今度こそイザベラはギルド協会を後にしたのだった。




