16 いざ王都へ
「す、凄い…流石は王都…人もたくさんいるのね」
イザベラが王都へ到着したのはその日の夕刻であった。
それまで小さな町でしか暮らしていなかったため、あまりの賑わいと人の多さにイザベラはすっかり及び腰になっていた。
「ええと、目的地は…」
父から渡された手紙と地図を懐から取り出す。
ざっくりと描かれた地図の目的地は『魔法商店』という場所であった。
「魔法商店、魔法商店…」
一人呟きながら石畳の上を歩き、所狭しと並んだ店々の看板を見ていく。
それにしても店舗の数が多い。このままでは目的地へ辿り着く前に日が暮れてしまいそうだ。少々焦っていたせいだろう、気付いた時には背中に衝撃が走り、イザベラはよろめいてしまった。
「っきゃ…!」
「……っ…」
そのまま倒れそうになったところを、ぶつかった人物に腕を掴まれ背後から抱き締められたことで何とか難を逃れることが出来た。
「すまない、大丈夫か…?」
「っ、こちらこそ、すみません…!」
ほっと一息付く間もなく慌てて振り返り、支えてくれた人物に対して頭を下げる。
顔を上げると、濃紺に近い髪色に黒い瞳の端正な顔立ちをした男性が立っていた。
(不自然なイケメンとの不自然な出会い…!もしかして…この人が次のターゲット?)
思わずまじまじとイザベラがその男性を眺めていると、男性の顔が薄らと赤みを帯び、視線が外された。
「……次からは気をつけるように」
「あっ!待って…!」
そのまま立ち去ろうとした男の服を掴む。男はぎょっとしてイザベラを見下ろした。
「何か?」
「あの、私お店を探してるんですけど…もしご存知なら教えて頂けませんか…?」
「何という店だ?」
「魔法商店というところです」
「魔法商店…」
折角のチャンスだと思い、店について尋ねてみたのだが、男の顔が曇ってしまった。なにか不味いことしただろうか。もしかしてヤバめの店だったり?
男はどう見ても、何故そんな店に用が?という表情をしている。まずい…もしかすると初っ端から好感度が下がってしまったかもしれない。
「私、今日初めて王都へ来たんですけど、魔法商店に居る方から魔法を習うようにと父から指示を受けたんです…」
「なるほど…だとしたら、その店はこの通りにはない。…こっちだ」
さっと背を向けて歩き出す男の後を慌てて追い掛ける。メインストリートにないとは予想外だった。やはり危ないお店なのだろうか…。それにしても地図適当すぎないか?どう見てもメインストリートにあるように描かれていたのに。まあ移転した可能性も否めないが。
黙々と歩く男を小走りで追い掛け、迷宮のような路地裏を抜けた細い裏通りの一角に、その店はあった。
どこか薄暗いその店は表の看板すらなく、とてもじゃないが誰彼構わず気軽に足を踏み入れられるような雰囲気ではない。所謂一見さんお断りの店なのかもしれない。
「え…と、もしかしてこのお店が…?」
「ああ、お前の探していた魔法商店だ」
「……うっ…」
「では、俺はこれで」
「待ってください…!なにか案内して頂いたお礼を…」
「結構だ」
「せめて、名前!名前だけでも!」
「……ロビン」
「ロビンさんですね、本当にありがとうございました。一人ではここまで辿り着けなかったと思います」
「ああ、それじゃあ」
「はい、またお会い出来ることを楽しみにしていますね」
直ぐに立ち去ろうとするロビンを何とか引き止めて、名前を聞くことには成功したものの…
ロビンの背中を見送りながら、イザベラは思わず苦笑を浮かべていた。
(本当にあの人が次の攻略対象者なのかしら?全く私に気がなさそうだったけど…)
「……セーブ」
ぽそりとイザベラは呪文を唱え、魔法商店の中に入ることにした。




