154 第一試合3
「第一グループはリアムさんみたいですね…」
「ええ、まあ彼なら心配なさそうね」
入場してきた選手の数はおよそ20人。それが4グループなので、全体の参加者は80人ほどなのだろう。
それなりの人数なのか、意外と少ないというべきか…
ただ軽い気持ちで参加している者は少なそうだ。誰もが腕に自信のありそうな体型をしている。
そりゃあそうだろう。間違えば死ぬかもしれないのだ。命のかかった試合に気軽に参加する者がいるわけがない。もしくは参加の段階でそういった者は弾かれているのかもしれない。
そもそも参加資格がBランク以上の者である。それだけでも相当な腕の者たちと言っても過言ではなかった。
つまり少なくともここにいる選手たちはイザベラよりは強いということになる。
そう思うと、それだけの戦闘力を持った人たちがこの場所に集っているという事実はかなり特殊なのではないかという気もしてきた。
(リアム…大丈夫かしら)
そこまで思い至り、イザベラの中に少しずつ不安に思う気持ちが膨らんでくる。
リアムが強いことは十分承知の上であったが、それでも万が一ということもある。
複雑な気持ちでスタジアムを見下ろしていると、ついに始まりの合図らしいホイッスルが鳴らされた。
選手たちが一斉に飛びかかる。
リアムは若く細身だからだろう、初っ端からかなりの人数に囲まれ襲い掛かられている。
はっとイザベラが息を呑み、手を固く握った。
リアムは剣を抜き、無言で最初に襲い掛かった人たちを薙ぎ払った。
そして呪文を唱えることなく魔法を発動させると、おぞましい闇が剣にまとわり、選手たちが警戒するように後ずさった。
(やっぱりあの剣は闇属性なんだわ…)
リアムは魔法剣士だと言っていたが、あの剣が発する闇はそんな可愛いものじゃない。禍々しいオーラはこれだけ離れた位置にいるイザベラですら寒気を覚えるほどだ。
きっと剣自体が闇属性のもの、もしくは呪われているのかもしれない。
(それを平然と使うなんて…一体彼は何者なの)
周囲を渦巻く闇が次第に大きくなってゆく。選手たちはもはやその恐怖に凍りついたように固まって動けなくなっていた。
隙を見せればあの闇に飲み込まれて二度と光ある場所へと戻れなさそうだ。
あんなもの人間に向けてもいい技なのだろうか。
選手たちは素人ではなくプロの冒険者である。それだけ危機意識も高いため、観覧者よりも素早く逃げ出し場外へと飛び出る者も少なくはなかった。
あまり魔力を感じない観覧者の方がよほど好戦的だ。脱落してゆく選手に対して大きなブーイングが巻き起こっている。
(試合としてはあまり面白味はないかもしれないわね…)
リアムの勝利は確信したものの、圧倒的な闇のオーラを纏う彼はヒーローとは程遠い存在に感じ、イザベラは思わず苦笑していた。




