153 第一試合2
ノアが冠を欲しがる理由は何だろうか。イザベラと知り合った時のように何か別でまた依頼を受けているのかもしれない。
だが、ノアは基本的にクールで合理的な男だ。そんな彼が危険を冒すほどの魅力があるというのだろうか。
イザベラが考え込んでいると、シャーロットがイザベラの隣へと周りぽんと肩を叩いた。
「イザベラさん。そろそろ私たちも行きましょう。今日はグループでの勝ち残りだと聞きました。」
シャーロットの言葉にイザベラははっと我に返る。そうだ悠長に考えている暇などないのだ。試合はすぐにでも始まるというのに。
「そうね…私たち、応援することしか出来ないのかしら」
「様々な思惑が絡み合ってそうではありますが…、私たちは私たちにできることをしましょう」
シャーロットの言葉は心強い。イザベラは改めて仲間の良さを実感する。
このままスポンサーという男の言うことを聞くのは癪ではあるものの、今はそうするしかない。
彼らの真意が掴めない以上、大人しく従っているように見せかけた方がいいかもしれない。
イザベラとシャーロットは試合の観覧席へと移動することにした。
「す、すごい人ね…それに子供もいる…」
「戦闘を行うんですよね?子供には刺激が強すぎると思うのですが…観覧に年齢制限はないのですね」
観覧席は熱気で溢れていた。格闘技の試合を見に来ている感覚なのだろうか。イザベラは暴力的な行為は苦手であるが、ショーとして楽しむ人間が大勢いるということも何となくは理解していた。
それにしても多い。まあここで暮らしている者は慣れているだろうし、ここを観光で選ぶ者は元々こういった過激なものを好む者が多いということだけかもしれない。
試合が始まる前からイザベラは既にぐったりとしていた。そしてそれとなく周囲を見渡していると、特別仕様らしき席にイザベラたちに話を持ちかけてきたスポンサーの姿を見つけ、はっと目を瞠る。
びくりと肩を跳ねさせたイザベラにシャーロットが首を傾げたが、何か声を掛ける前に周囲から、わあああと凄まじい歓声が上がり掻き消されてしまった。
どうやら試合が始まるようだ。
一応席はそれぞれに与えられていたのだが、座ってのんびり見る者など一人もいない。観客は皆立ち上がり興奮状態であった。
イザベラたちはそんな様子に気圧されつつも、中央にあるフィールドへと目を向ける。
すると一人のマイクを持った男性が中央へと歩いてきた。
観客の声に応えるように手を振りながら歩いてくる男性はどうやら進行解説役らしい。
今から4グループに分かれた戦士たちが順に戦闘を行い、それぞれグループごとに一人ずつが勝ち上がることができるとのことであった。
イザベラたちはリアムとノアがどのグループに振り分けられたのかを知らない。
リアムとノアはそれぞれ手を抜かずに戦いそうな様子であった。
まさか二人が初っ端から戦闘するのでは…と青褪める。
不安がっている間にも、戦士たちが入場してきた。
その中にリアムの姿を見つけ、思わずノアの姿も探したが、どうやら彼らは別のグループに分けられたらしい。
それだけでイザベラはほっと安堵に包まれた。




