149 闘技大会前夜2
何かをじっと考え込んでいる男性はイザベラが傍に寄っても気づいていないようであった。
「あの…」
おそるおそるイザベラが声をかけると、ようやく気づいた男性がはっと顔を上げた。
視線が絡むと、彼もイザベラのことを覚えていたのだろう、途端に口角を上げて笑みを浮かべる。
「やあ、奇遇だな!君もこの階に泊まっていたのか」
「ええ、…あの、ここに座っても?」
「もちろん!」
彼の座っていた隣のソファを指差すと、男性は笑顔で頷く。
「あの、そういえばお名前をお伺いしていなかったなと思って」
「言われてみればそうだな。オレはイアン。一緒に居たのはマチルダだ」
「私はイザベラ。一緒に居た男性はリアムよ」
「そうか、改めてよろしくイザベラ。ええと、大会に出場するのはリアムだけだったか?」
「そうね。それからあと二人仲間がいるんだけど、そのうちの一人が参加する予定」
「……そうか。その、君たちはどこまで知っていて参加するんだ?観光の記念とかだろうか?」
「どこまでっていうのは…?」
いきなり核心に触れる話題を振ったイアンに、ごくりとイザベラは喉を鳴らした。
やはり何かあるのだこの大会は。
「あー、いや、何も知らないのならそれでいいんだ。別にそんな怪しい話とかではない。オレの言い方が大袈裟だったな!」
「……イアンさんはどうしてこの大会に出場しようと?」
「あ?あー…オレは実はこの大会の常連でな。過去にわりと優勝している。土産屋とかにグッズもあるけど見なかったか?そういえば君たちはオレのことを知らなかったな。だから一発で慣れてないと分かったぞ。この大会に出場するには何か事情がないと難しいと思うのだが、君たちの動機は?」
「え、えーと…」
やはり闘技大会は誰でもどうぞと気軽に参加できるようなものではなかったらしい。てっきり条件はBランク以上だけなのかと思ったが、違ったのか。イザベラは思案する。正直に言うべきか、どうか。
そもそもイアンは予想通り大会優勝常連者だったのか。ではあのスポンサーの言っていた優勝者候補とはなんだったのか。ただ騙されただけだろうか。
イアンかスポンサー、どちらが嘘をついているかと言われれば間違いなく疑わしいのはスポンサーの方である。
イアンは何だか信頼できそうだ。勘だけど。
「実はね、今日スポンサーの一人と知り合いになったの。それで彼に大会を盛り上げるために出てほしいって言われて…出場資格のあった二人に急遽出てもらうことになったのよ」
迷った末、イザベラは真実を告げることにした。どうせバレることなのだ。変に嘘をついて信用を失うのは得策ではない。
そう判断してのことだったのだが、話を聞いたイアンの表情は曇ってしまった。




