148 闘技大会前夜1
「シャーロット?どうかした?」
彼らがいるところでは話しづらい何かがあったのだろうか。イザベラが首を傾げて問うと、シャーロットが逡巡した後口を開く。
「……その、なんだか、綺麗過ぎませんか?」
「綺麗すぎる?」
「はい。いくら観光名所となっているとはいえ、内容は闘技大会です。ライトな殺し合いと言ってもいい。そのわりになんというか…緊迫感がないといいますか。なんだかそのギャップが気持ち悪くて」
「確かに…」
カップルや家族連れがくるにはあまりにも場違いだというのはイザベラも感じていた。もっと物騒で野蛮なイメージだったのだが、そんな平和的な格闘技に近いものなのだろうか。そこら辺は実際の試合を見てみるまでは何とも言えない。
「それに、噂ではこの大会では死人が出ることも珍しくないと耳にしました」
「えっ!!?」
「まったくそんな雰囲気はなかったですよね?イザベラさんは他の参加者にも会ったんでしょう?ノアさんやリアムさんはそれなりに死闘を経験しているから今更緊迫感もないと思いますが、彼らの様子は如何でしたか?」
「うーん…そんな、死ぬかもみたいな雰囲気は一切なかったわよ。スポーツ大会に出場するみたいな感じだったわ」
「そうですよね…、どうしてでしょうか」
二人で首を傾げてみたが、悩んでいるだけでは答えが出そうになかった。
「私…もう少し様子を見てこようかしら。夜になればまた雰囲気も変わってるかもしれないし!」
悩むよりも行動すべきと勇み立ち上がったイザベラに、シャーロットが慌てて止めに入る。
「そんな、一人でなんて危ないです」
「平気よ。危ないと思ったらすぐに戻ってくるわ」
イザベラが寝巻きから普段着へと着替え、部屋から出ていくのをシャーロットは苦笑しながら見送ってくれた。
◇
流石にコロッセウムまで行ってみるわけにもいかず、とりあえず宿泊施設をぶらぶらしてみるかと歩いていたイザベラは各階にある休憩室のような場所のソファに腰を下ろしている人影に気づき足を止めた。
「あれは…」
ソファに座っていたのは昼間イザベラがぶつかった屈強な男性である。
彼は半裸が基本装備なのか、昼間会ったときと全く同じ服装であった。他に周囲に人影はなく、昼間一緒にいた女性とは別れたらしい。
昼間会ったときは朗らかな男性という印象であったが、今遠目に見る彼はどことなく影があり、何か思い詰めた表情をしている。
どきりと嫌な予感を覚えたイザベラは声を掛けるべく彼の元へと歩み寄った。




