146 出会い
「ご、ごめんなさい!」
イザベラが思い切りぶつかった相手はどうやらがっしりとした体格の男性だったようで、イザベラは吹っ飛ばされそうになった。
そんなイザベラが飛ばされるのを腕と腰を支えることで防いでくれた男性は並外れた運動神経であることが窺える。
イザベラは来る衝撃に備えて固く閉じていた目をおそるおそる開いた。
するとそこにはなぜか半裸の屈強な男性と、背の高いスラリとした女性が並んで立っていた。
イザベラがぶつかったのは男性の方で、上半身が裸である事実に衝撃を受けて固まっていると横からイザベラの腕をぐいと引く手があった。
「すまない!怪我はないだろうか?」
「……女性に気安く触れるな」
「そ、それもそうだな!重ねて申し訳ない!」
屈強な体つきに反しておろおろとイザベラを案ずる男性に、イザベラよりも先にリアムが答えた。
イザベラの腕を引いたのはリアムで、イザベラは何とか体勢を整えるとリアムの方を向き目を瞬かせる。
リアムは表情の変化が少ないため分かりにくくはあったが、声の剣呑さからして相当怒っているようだ。
そこまで怒るような出来事だっただろうか、もちろん故意ではなかったしイザベラにも過失があったと思う。
イザベラは腕を掴んでいるリアムを宥めるように押しやってから、改めて二人に向き合った。
「こちらこそ。怪我はないわ。あなたの方こそ大丈夫だったかしら?」
「それは良かった。ははは!オレの心配までしてくれるなんて優しい人だな!オレの方は見ての通り、ピンピンしているとも!」
そう言って快活に笑った男性が力こぶを作り、笑顔を見せる。隣に立っていた女性が呆れたように嘆息した。
「怪我がなくて何より。コイツには私の方からまた改めてよく言い聞かせておく。アンタたちは…観光客?」
冒険者の様相だからだろう、クールな雰囲気の女性が首を傾げて尋ねた。黒髪にショートカット、目つきのきついその容貌はどちらかといえば女性受けするような雰囲気だ。姉御とでも呼びたくなるタイプである。
身長も男性の平均身長を超えてそうなくらいには高いが、なんせ隣にいる男性が屈強な戦士のような体型であるため相対して華奢に見えていた。
イザベラは女性の問いに首を横に振る。
「いいえ。観光客ではないわ。ええと、彼は大会の出場予定者なの。私はその仲間」
イザベラの言葉に女性が目を丸くし、男性は嬉しそうに満面の笑みになった。
「なんと!それは奇遇だな。オレたちも大会に出場するんだ」
「オレたちってことは…」
「ああ、私もそうだ。もしかすると明日対戦相手になるかもしれないな。よろしく頼む」
「こちらこそ、やるからには正々堂々とだ。よろしく頼む」
3人は朗らかに挨拶をかわしていたが、イザベラは何とも言えない気持ちになり押し黙ってしまった。




