145 偵察
リアムと二人きりでコロッセウムの中をぶらぶらとうろつく。こうして二人きりで過ごすなんていつ振りだろうか。イザベラは柄にもなく緊張していた。
何となく意識してしまって隣を歩くリアムの顔をまともに見ることすらできない。
(な、なんで意識する必要があるのよ私…!今は別にデートとかそんなんじゃ全くないのに…って、なにデートって!!何考えてんの私!!)
思わず脳内で自分にツッコミを入れてしまう。先日ノアがイザベラに対して変なことを言ったせいで、リアムのことをやけに意識しまっている自分がいた。
リアムはそんなイザベラの心境を知ってか知らずかマイペースに周囲を見渡している。
「戦闘都市の闘技大会というからにはいかにもな者たちばかりかと思ったが…そういうわけでもなさそうだな」
「確かに…言われてみればそうね。なんというか、まるで…普通の観光地みたいだわ」
リアムに言われ、イザベラは改めて周囲を見渡した。屈強な男たちというのも確かにいるにはいるが、家族連れやカップル、それに観光ガイドがツアーを率いているところすらあり、イザベラが思っていたような物騒な大会というよりは、祭りのようなイベントに近いものなのかもしれないと考えを改める。
「本当に…ここで闘技大会が行われるの…?なんだかまだ信じられないわ」
スポンサーの話によると、大会が始まるのは明日とのこと。実に急である。タイミングが良かったのか悪かったのか。あの後話を聞けばどうやらこの大会に参加できるのはBランク以上の者だけらしい。
つまり最初からイザベラは参加対象外だったのだ。リアムたちにぼこぼこにされた男たちよりもランクが低いという事実に打ちのめされはしたものの、客観的事実に変わりはない。
大会は魔法物理なんでもありの自由格闘技に近いものらしい。
1回戦はグループでの戦闘。ここで勝利した者が個人戦へと進むことになるのだとか。
イザベラとしてはノアとリアムが初戦で当たることのないようにお願いしたいところであるが、そういったコントロールも含め一切がランダムなのだそうだ。
さすがに本気で彼らにやりあってほしいわけではないため、もし初戦でリアムとノアが同じグループだった場合ノアには棄権してもらうようこっそり話をつけておいた。
リアムはやるからには正々堂々と戦うのみだと言うことを聞かないので、とりあえず優勝を目指せとだけ言っておいた。
彼ならあっさり優勝してしまうかもしれない。スポンサーがなにか手出ししてこない限りそう思える。
だが、どうも引っかかるのだ。あのスポンサーは一体何を考えていたのか。
そんな風に気もそぞろで歩いていたせいだろうか、イザベラは前方から来ていた人物に真正面からぶつかってしまった。




