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143 怪しいスポンサー

助けた女性はお礼がしたいと言って、強引にコロッセウムの中にあった一室へとイザベラたちを案内した。

そこに待っていたのはこの大会のスポンサーの一人であった。

ダンディな男性は、その女性の父親だと名乗った。


「娘を助けてくれてありがとう」


にこにことテーブル越しに微笑む男性。イザベラはなんとなく薄気味悪さを覚えていた。なぜだろうと疑問に思いまじまじと見ていて気が付く。目が一切笑っていないのだ。

率直に言うと、胡散臭い。こういう人物に関わると碌な目に遭わないとゲーマーの勘が言っている。

お礼も断ろうと続く言葉を待ったのが間違いであった。今後勘をもっと大切にしよう、やばいと思った瞬間に逃げようと心に刻む。


「……だが、実に困ったことになってしまった」


男性は悩ましげにため息をつく。イザベラはその芝居がかった仕草に警戒心を強めた。


「実は彼らのうちの一人は、この大会の優勝候補者だったんだ」

「……はい?」

「彼には私も期待していたのだが…あの怪我では到底出場することは叶わないだろう。となると困ったことになる。大会自体に大いなる支障をきたすことになるね。何なら不正を疑われてしまうかもしれない」

「そんな…」

「分かってる。君たちは何も悪くない。何せ娘を助けてくれたんだからね。悪いのは彼らだ。…だが…困ったな。実に困った。他に腕の立つ者がいれば話は別なのだが」


またしても態とらしいため息だ。イザベラの頬が引き攣る。この男の言いたいことがわかってきた。どこまで芝居だったのかは分からないが、要はイザベラたちにあの男たちの代わりに大会に出ろいうのだろう。

大会に出場すること自体別に抵抗があったわけではないが、この胡散臭い男の言いなりになるのは何となく嫌だ。あまり良くない気がする。何せこれ以上関わりたくないのが本音だ。もしこれで優勝を逃せば金を要求してきたり、監禁されてしまうおそれすらある。ここは引くのが得策だろう。

とはいえ、咄嗟のことであるため何と言って逃れればいいのか思い浮かばない。


イザベラは迂闊な発言をしてはならないと黙ってしまった。が、それこそが間違いだった。嫌なものは嫌とでも適当に言っておけばよかったのだ。

それに気付いたときには既にリアムが口を開いていた。


「いいだろう。俺が出場してやる」

「ちょっと!?リアム!!?」

「本当かい?助かるよ。ああ、ありがとう。なんと素晴らしい方たちなんだ。娘だけでなく私のことも助けてくれるというのだね」

「ちょっと待って!考えさせてください!」

「なぜだ?ここに来たということはこの大会に出場しても構わないと考えていたのではないのか?」

「そ、それはっ、そうだけど…!」

「じゃあいいじゃないか。こいつは主催者側の人物なのだろう。だとすれば手続きも容易なはずだ」

「勿論。すぐにでも参加資格を授けよう。出場するのは君一人かね?」

「ああ。他の者は出るだけ無駄だろう。俺一人で十分だ」

「ちょっと!待ってってば!」

「何だ?何が不満なんだ?」

「分かりました。じゃあノアも出場させてください!参加者は2名!これが私の条件です」

「……え?」


思わぬ流れ弾を喰らったノアは飄々とした彼に珍しく、心底嫌そうな声をあげたのであった。

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