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138 向けられる想い

イザベラが思考を飛ばしていると、不意に目の前へとサイラスが現れた。

背の高い彼が正面に立つと、かなりの威圧感がある。イザベラがベッドの上から彼を見上げると彼は柔らかく微笑み、イザベラの手を取った。


「イザベラ」

「え、あ、あの…サイラス…さん?」

「サイラス」

「……サイラス…」


(い、いったい何が起こってるの…!?)


サイラスはイザベラの目が覚めてからというものこの調子である。目が覚めてからというよりは過去の記憶が蘇ってからと言った方が正しいのかもしれない。

その背後ではローザが呆れたように腕を組んで立っていた。


「ええと、どうしたのかしら…?」

「私はしばらく旅に出ようと思う。学長代理も見つかったことだし」

「はあ!?私は了承してないわよ!?」

「そこで、だ。君も一緒にどうだね?」

「……はい?」

「イザベラ。私を変えてくれた女神。君さえいれば私はなんだってできる気がするんだ」

「え、ええと…」

「イザベラ、君を愛している。私と共に来てくれないか」

「ちょっとサイラス!!?アンタ私の愛弟子になんてこと言ってんの!イザベラ!?アンタもなんとか言いなさいよ!ちょっと!イザベラ!?」


イザベラはあまりの衝撃の強さに一瞬意識を失いそうになり、ぐらりと背後に倒れかけたが繋いでいた手を引かれなんとか体勢を戻した。

尤も戻した先にはサイラスがいるのだが。

イザベラが黙り込んだせいで、周囲は沈黙が支配してしまった。

ローザも先ほどまでは叫んでいたが、サイラスがあまりにも反応しないため今はイザベラの様子を伺うことにしたらしい。

シャーロットは面倒ごとを察したのかそれとも元プレイヤーとしての勘か自分は居ないもののように振る舞っている。正直助けて欲しかったが、彼女はそういったことに気を回すタイプでないことは既に分かっているので多大な期待をかけることは諦めた。

それにサイラスは真摯にイザベラへ愛を告白してくれたのだ。イザベラがここで適当にあしらうのは失礼でもあるだろう。

そう思いイザベラは深く息を吸ってからサイラスを見据えた。


「ありがとうサイラス。あなたの気持ちとっても嬉しいわ。…だけど…あなたと一緒に旅には出られない。私には私の使命があるから」


きっぱりと言い切ったイザベラに、覚悟はしていたのだろうサイラスは静かに頷くだけであった。

そして触れていた手を離すと、そっとイザベラの髪を撫でてから下ろした。

なんというか全体的に行動がスマートというか、慣れているような気がする。生真面目な印象だったのだが…やはりここは大人の力というところだろうか。


「君が君の役目を果たせるよう、願っているよ」


そんなイザベラの気持ちを知ってか知らずか、サイラスの言葉はイザベラの胸を温かく包み込んだ。


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