137 魔王の痕跡
「はあ…まあ無事に目が覚めたようでよかったわ。私はこれで帰ってもいいかしら?」
「何を言ってるんだ?」
「……何よ?もう十分役目は果たしたでしょう?」
「君を呼んだのはそれだけが理由ではない」
「……は?」
「君には明日からしばらくの間学長代理を担ってもらう」
「は?」
「……え?」
帰ろうとするローザを呼び止めて向けられたサイラスの言葉にローザもだろうが、イザベラも驚いた。
サイラスはそんな周囲の反応など気にした様子もなく淡々と言葉を紡ぐ。
「君が言い出したことだろう。私が学長になって旅に出たいと思った時には自分が学長代理になる、と」
「そ、それは…!場の雰囲気とか!あるでしょう!?」
「つまり覚えているということだな?」
「なによ!旅に出たくなったの?急に?」
「ああ。……イザベラのことを思い出したら、な」
意味深に言葉を区切り、イザベラの方へと視線をやるサイラスにどきりと胸が高鳴った。
一体どういう意味だろう?何よりも学園のことを想い大事にしていたサイラスがローザに代理とはいえ学長の座を譲ることがイザベラにとっては意外でならなかった。
それはローザも同じだったらしい。彼女には珍しくぽかんと口を開いて固まっていた。
「イザベラ。…それにシャーロット」
「「はい」」
「君たちには多大な迷惑をかけた。それから大分遅くなったが、二人とも無事にランクアップは完了している。シャーロットはBランク、イザベラはCランクとなっているからまた確認しておいてくれ」
「分かりました」
「それから、あの場にいたモンスター…あれは、どうやら魔王の魔力に対する影響を受けて暴走した精霊だったようだ。…私が未熟だったばかりに、あれに飲み込まれ結果としてイザベラを私の過去に放ってしまった」
「……魔王の魔力?」
どこかで聞いたような話だった。
「どういうこと?魔王が再び行動を起こし始めたということなの?」
「さあ、それは私にも分からない。魔王が姿を現したという報告を受けてはいないが…滅びの都市から出たという話も聞かない。だが、あの鍾乳洞には異様なほどに魔力が篭っていた。あの魔力量…魔王の力としか思えない。少なくともこの都市に滞在しているくらいの力はあるだろう。…だが、そんな報告も受けてはいない。そもそもここは閉鎖的な都市で、情報量が少ないんだ。確実なことが言えず申し訳ないね」
「……いえ。こちらこそ、色々と教えてくれてありがとう」
魔王が滅びの都市を出てうろついているということだろうか?てっきり滅びの都市に向かえば魔王に会えると思っていたのだが。もし行き違いになっても困る。だが、今のイザベラの実力では魔王と対峙しても倒されてしまうだけだろう。
(魔王のことは一旦忘れて、滅びの都市に向かった方がいいかもしれないわね…)




