132 シャーロットの過去
シャーロットがサイラスに告げたように、都市を元の形に戻すよりも優れた指導者が指揮をとることの方が希少性が高かったに違いない。
彼らの言葉からいって、学長という存在はどうやら学園のトップという意味以上にこの都市にとって重要なポジションであることに違いなかった。
つまり言い換えればかなりの実力者であったはずの学長が命を落とすような出来事が起こったということだ。
(それに魔王…魔王がこの都市を滅ぼした…?いや、でもだとしたら矛盾する。魔王そのものというよりは魔王の配下もしくは魔王の座を狙った何者かといった方がいいのかしら)
ここでいつまでも考察しているわけにもいかないだろう。あらかた思考を巡らせたところでイザベラは足を踏み出した。
そしてサイラスの前に出ると、サイラスはある程度予測していたのかさほど驚いた様子もなくイザベラを真っ直ぐ見据えた。
「……久しぶりだね」
「そうね」
「ここに来たとき、もしかするとまた君に会えるんじゃないかと期待していたんだ」
「本当?」
「ああ。君はいつも…私の重要な局面で現れて、助言を与えてくれる」
「そんなことないわ…私はあなた自身が決断して実行しているのを見ているだけよ」
「ふっ、君は私を助けに来てくれたんじゃなかったのかね?」
「……ごめんなさい。あれは嘘なの。いや、嘘というわけじゃないんだけど…咄嗟に出た言葉というか…それが本当の目的じゃないというか…」
「そうか」
さすがにイザベラよりも大人になったサイラスに対してこれ以上嘘をつき続けることに罪悪感を覚えてイザベラは言い訳したが、サイラスは目立った反応もなくすんなりと受け入れた。
「まあ、君の目的が何であろうと私にとって然程重要ではない。私にとって重要なのは君がいつも私の指針となってくれる女神だということだ」
「め、女神…!?」
続いたサイラスの言葉に、イザベラは思わずぎょっと瞠ったがサイラスはくすりとも笑わなかった。
「先程の女性とのやりとりは見たかね?察しの通り、私は大切な人々を失ってしまった。…私の力が及ばないばっかりに…私のやり方は間違っていたのだろうか」
「……サイラス…」
「彼女はシャーロットといってね。外から来た冒険者なんだ。そして彼女はこの都市で運命の相手と出会った」
「運命の相手…ですか」
「ああ。彼はここで教師をしていた。私の部下でもある。真面目で熱い青年でね、将来がとても楽しみだった。そして…どことなくではあるが、ローザと似ていた。だから余計に気にかけていたのかもしれない」
「……」
「彼も元々は他の地方の出身だったんだが、進学のためこの都市にきてね。そのまま教師になったんだ。そして彼らは出会った。…シャーロットは反対に私と似ていたかもしれない。クールで現実的、いつもどこか冷めたような眼差しをしていた。初め彼らが婚約すると聞いたときは驚いたものだが…、彼らは同じ夢を見て、共に歩んでいきたいと言っていた。…羨ましかったよ。私とローザは結局別れてしまったからね。だからこそ、私たちの分まで応援したいと思っていた。…だが」




