13 告白タイム到来?
翌日の夜。今日はエリックと約束した日である。
(まさか今日も告白しないなんてこと…流石にないわよね?)
今日もエリックのクエストを受注したのだが、届けに行った際彼は不在であった。休みだったのだろうか。
「それにしても…真っ暗ね…。光よ…!」
イザベラの掲げていた杖から仄かな光が生じた。なんちゃって懐中電灯である。
今まであまり遅くまでこの草原に居たことはなかったが、こんなにも暗かっただろうか。
「あ、もしかして…新月?」
ふと見上げた空に月の姿はなかった。月が隠れているせいでこんなにも暗いのだろう。エリックはこんなところに呼び出して一体…?イザベラは彼の意図が分からず、首を傾げた。そして想像は広がってゆく。
(ま、まさか告白以上のことをするつもりじゃないでしょうね…!?)
思いがけず生じた疑念に、一人で狼狽えてしまう。
そのとき、不意に花畑のひと区画が大きく揺らいだ気がした。
「……?」
「イザベラ!来てくれたんだね」
じっと目を凝らしてみると、そこにいたのはイザベラを呼び出した張本人であるエリックであった。
エリックはイザベラの向けた明かりに眩しそうに目を眇めながらも笑顔を向けてくれている。
彼は先に到着しており、花畑に腰を下ろしていたようだ。
「君もこっちへおいで。…あと、申し訳ないが明かりは消してくれないかな?」
「……分かったわ」
咄嗟にためらいを覚えたが、仕方がない。女は度胸!と思いつつ、エリックの隣に腰を下ろして灯していた明かりを消した。
そして視界は真っ暗になる。先程まで明かりを見ていたため夜目も利かず、エリックの顔すらまともに見えなかった。
「エリック…」
「しっ、静かに…もう少しで見えるはずだ」
堪らず彼の名前を呼ぶが、まさかの制止である。本当に一体何なのだ?
仕方がないので、黙って夜目に慣れるようにじっと暗闇を眺めていると、次第に白い花たちが見えるようになってきた。
「……え、…何これ…」
そして見えてきたと思うと共に、花たちが一斉に発光し始めた。白い花が一面に光を放つ様は、実に幻想的でイザベラは見惚れてしまう。
「綺麗だろう?…どうしてもこの景色を、君に見せたかったんだ」
「ええ、綺麗…」
先程までは全く見えなかったエリックの顔も、花たちに照らされて伺えるようになった。彼は真っ直ぐにイザベラを見て、優しく微笑んでくれていた。
「この花は、新月の夜にだけ発光するんだ。子供の頃この景色を見て、この花のことが好きになった。…そして、いつか君と一緒にこの風景を見たいと思ってたんだ」
「……そうなのね」
「……イザベラ…」
エリックに吐息混じりに名を呼ばれ、イザベラの胸が高鳴った。こんなにも静かな空間だと言うのに心臓の音がうるさい。もしかしてエリックに聞こえているのでは?と焦り、イザベラは赤面した顔を見られないように俯こうとする。
しかし、エリックがそれを妨げるようにイザベラの両肩に手をかけた。どきっと心臓が跳ねる。おそるおそる目線を上げると、真摯な表情をしたエリックと視線が交わった。
「イザベラ、僕は君が好きだ」
「エリック…」
真っ直ぐに向けられる目から視線を逸らせず、イザベラの瞳が揺れる。顔は熱を持っていて、きっと真っ赤なままのはずだ。告白させようとあんなに頑張っていたというのに、いざ告白をされるととんでもなく動揺してしまった。
エリックの顔がふとイザベラへ寄せられる。肩を掴む手にやや力が込められた。
(えっ?も、もしかして…!キスされる…!)
そのまま近づく顔にイザベラの身体が硬直し、ぎゅっと目を固く閉じる。
予想していた唇への感触は訪れず、代わりに額へ温かいものが触れたかと思うとすぐに気配は遠ざかっていった。肩に触れていた手も離され、イザベラは目を開いた。
目の前にはまだエリックがいて、悪戯に成功した子供のような笑みを浮かべている。
「エリック…!からかったわね!」
「ははっ、キスされるかと思った?」
先程までうるさかった心臓はやや大人しくなった。もしかして彼は緊張を解こうとしてくれたのだろうか。
そんなことを考えていると、エリックが突然イザベラの隣でごろんと仰向けに寝転んだ。
「イザベラ、この花の花言葉を知っているかい?」
下から見上げるような形で再び視線が交わる。イザベラは知らなかったので、素直に横に首を振った。
「あなたの幸せを願う。…この言葉を僕は君に送るよ」
「……エリック。ありがとう」
ぐっと込み上げる、この気持ちをどう表現すればいいのか、イザベラには分からなかった。
ただ、今は…ゲームのことなど全て忘れて、この時が永遠に続けばいいのにと思った。
エリックが照れたように破顔する。イザベラもつられるように心からの笑顔を向けた。
そしてイザベラもエリックの隣に寝転がり、二人して幻想的な夜に身を委ねたのであった。




