128 もしかして
「あなたローザのこと信頼してるんでしょう?だったら彼女が言ったこと、嘘じゃないと思うわよ。少なくともローザは本心からそう言ったに違いないわ」
「……俺が学長、ねえ…」
素直に頷けない何かがあるのだろうか。イザベラは首を傾げて続きを待ったが、結局サイラスがそれ以上語ることはなかった。
それからぽつりぽつりと互いに言葉を重ねたが、それは決して自身の心を曝け出すような激しいやりとりではなく、どちらかといえば自身の中にある想いを言葉にすることで改めて再確認するような作業じみたものであった。
一通り口にしたことで頭の中が整理できたのか、会話の途切れたタイミングでサイラスがおもむろに立ち上がった。
そしてイザベラを見下ろし、口元を綻ばせる。
「ありがとな。お前のおかげで何だか吹っ切れた気がする」
「そんな…私、何もしてないわ」
「いや、そんなことねーよ。お前は俺からたくさんの言葉を引き出してくれた。周囲にあまりさ、ちゃんと話聞いてくれるやつとかいねーから助かったわ」
「……それなら良かった。こちらこそたくさん話してくれてありがとう」
きっとこのやりとりで未来が変わることはないだろう。その確信だけは持てるのだが、サイラスの言うようにイザベラがここにいる意味があるのかは分からず、イザベラはどこか曇った笑みを浮かべるだけであった。
「じゃあ、俺帰るわ。お前は、えっと…どこに帰るのか知らねーけど、気をつけて帰れよ」
「ええ、ありがと」
辿々しくもこちらを最後まで気遣ってくれるサイラスは、年齢のわりに随分大人びている印象を抱いた。
むしろ大人になったサイラスとはビジネスライクな関係であり、女性として扱われてもいなかったため、今のサイラスの方が余程異性として距離が近いかもしれない。
(あれ…もしかして、サイラスって…攻略対象者だったり…するの?)
確かにやけに整った顔立ちをしているなあとは思ったが、イザベラと年齢差がそこそこあったためそういう対象では見ていなかったのだ。
逆にサイラスの方もそういった意味でイザベラのことを見ていなかったように思う。まあそこは年齢差というよりも彼との出会い方がそうさせたのかもしれないが。
(会ってわりとすぐに試練に出ちゃったからなあ…ゆっくり話したこともなかったし)
(どう見てもサイラスはローザが好きだと思うんだけど…私が入り込む余地なんて…ある?)
それに気掛かりな点はもう一つあった。大人になったサイラスがイザベラのことを初対面として扱ったことだ。
(うーん…別の世界線の話…だったり?なんか複雑な感じなのかしら…)
あるいはイザベラが考えすぎで、やはり夢の世界の話でしたという結末も十分にありうる。
(サイラスの過去を覗き見てる?だとしたら何で喋れるのよ…わっかんないわ…)
去ってゆくサイラスに手を振って見送りながらも、イザベラは先の見えない不安に頭を抱えたくなった。




