125 二人の別れ
正直言って、ここで正しい者はいない。この問題に正解などないからだ。それこそ価値観の違いというやつである。
だからこそ色んな人がいて、色んな暮らしがある。
多様性と言い換えればいいのかもしれない。が、多様性を受け入れるのもまた価値観である。
(なかなか根が深い問題だな…)
イザベラがここで割って入っても構わないのだが、事態がややこしくなるだけだろう。
今はそっと見守るべきだと判断した。
それにこの先の未来なら分かっている。きっとローザは旅に出る。そして王都へ留まるようになるのだ。
(ローザは…古の都市が好きじゃないのかしら…)
世界中を旅したかもしれないローザ。どうして彼女は古の都市に戻らず、王都へ残ると選択したのだろう。
もしかすると閉鎖的というのは、余所者に冷たいというだけでなく、出ていった者に対しても冷たいということなのだろうか。
そうなのだとしたら、彼女の下した決断はあまりにも重い。
(友人や家族と…この先二度と会えないかもしれないと分かっていても、旅に出ることを選んだのね…)
その重い決断を聞かされたサイラスは一体どんな気持ちだったのだろうか。
彼は言っていた。ローザが学長になり、自分はそれを支えたいのだと。それはある意味でローザとずっと一緒にいたいという意思の表れであった。
それなのに…今彼女は彼の元から去ろうとしている。
サイラスの心境を思い、イザベラは胸を痛めた。
「……ローザ…」
ぽつりと零れたサイラスの声はあまりにもか細く、悲壮感を漂わせている。
先ほどまでの激昂は何だったのかと言いたくなるほど、サイラスは落ち込んでいた。
「サイラス…ごめんなさい。アンタの想いに応えられなくて」
「……」
「一緒に魔道士の修行したの、凄く楽しかったわ。アンタ教師に向いてるわ、私より余程ね。だからアンタがなってよ、学長に」
「そんなこと…言うなよ…」
「アンタならなれるわ。もしアンタが学長になって私みたいに旅に出たいと思ったら、そのときは私が学長代理になってあげるから」
「はあ?無責任なことばっか言ってんじゃねー」
「アンタもいつか絶対私みたいに旅に出たいと思う日がくるわ。魂を揺さぶられるような出会いをしたとき、きっと…私がセレナやテオと会ったみたいに。いつかそんなやつらに会えるといいわね」
「ねーよ。俺はお前と違って責任感が強いからな」
「あははっ、そっか」
「……無理すんなよ」
「…うん、ありがと。元気でね」
「……お前もな」
二人はこうして別れることとなった。




