124 決意
イザベラの衝撃をよそに口論はヒートアップするばかりだ。
「だって…そうじゃなきゃお前が…出ていくなんて…!」
「嘘ばっか!本当は分かってたんでしょ?私が黒魔道士なんてだいっ嫌いなんだってこと!」
「……!…そんなこと言うなよ…!」
「黒魔道士なんて…っ、ずっと…嫌いだった…!私だってどうせ黒魔道士になるに決まってる!人を傷つけるだけしか脳のない職業なのに、何であんなに貴ばれて…学園長になんて…」
「お前の両親はすげー人だよ!!」
「そんなわけない…っ!あの人たちは…っ、他の職業の人たちをバカにしてる!テオのことも…セレナのことも…!」
「お前だってそうじゃねーか!!」
「え?」
「お前だって!何も知らねーくせに、親父さんたちのことバカにしてんじゃん!!」
「……サイラス…」
「……ごめん、言いすぎた」
「ううん、こっちこそ…ごめん。なんだか感情的になっちゃった」
お互いの本音を言い合ったからか、喧嘩の勢いは急速に萎んでゆく。
向かい合って立ったまま二人は項垂れるようにして沈黙が流れた。
「……なあ、本当にいくのか?」
「うん。…私ね、テオとセレナに会って、ようやく自分を許すことができたの。…今までずっと苦しかった。両親のことは、ごめん。私もちゃんと尊敬してる。…でも、私も親と同じようになりたいかって言われると、そうじゃないなって。なるべく違和感から目を逸らしてた。…けど、セレナがね、言ってくれたんだ。職業だけが全てじゃないって。職業に相応しい自分になんてなる必要ないって。私はずっと両親から、学園長を目指せよそ見をするな相応しい自分になれって言われてた。私も自分はそうすべきだって考えてた。でもね、やっぱり違ったんだ。私はね、もっと世界が見たい!セレナやテオと一緒に!世界中を旅してみたいの!」
ローザの瞳はキラキラと輝いている。冒険者であれば誰もが多少は抱いている夢の一つだ。なにもおかしいことなんてない。
ただ…ローザの場合は違うのだろう。古の都市は閉鎖的だと言っていた。きっとほとんどの者はここで生まれ死ぬまでここに留まるのだろう。世界を知ろうともしないまま。
ローザの両親もそうに違いない。価値観がまるで異なる相手への説得は困難を極めるであろうことは容易に想像できた。
しかもローザはまだ20歳にも満たない少女なのだ。
もしかすると既に周囲とやりやった後なのかもしれない。ローザの態度はそれほどまでに頑なであった。




