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123 ローザの過去

30年この世界で暮らすことを思いややげんなりしていたイザベラに対して、何も知らないサイラスは首を傾げる。


「なあ、あのさ」

「なに?」

「俺、待ってみるよ。ローザのこと。あいつが俺に言いたいこと言えるように、俺もっと大人になる」

「そう、頑張ってね」

「ああ、ありがとな」


サイラスに微笑まれ、イザベラも同じように微笑んだとき、ざあと強く風が吹いた。

あまりの強さに目を開けていることもできず、イザベラはぎゅっと目を瞑った。

そして風が収まり、ゆっくりと目を開けると先ほどまでいたはずのサイラス少年の姿が忽然と消えていた。


「……あれ?どこ行っちゃったの?」


30年追い続けなければならないかもしれない相手を早速見失ってしまい、イザベラは困惑した。

慌てて辺りを探し回っていると、誰かが言い争っている声が聞こえてきた。

様子を伺うためにイザベラはおそるおそる声の方へと近寄り、茂みから覗き込む。


(……あれは!…ローザ…と、サイラス…?)


少女がローザだということはすぐにわかった。しかし先ほどイザベラが見たローザからはかなり成長しているように思う。年でいえば15歳くらいだろうか。

もう一人言い争っていた少年は消去法でサイラスかとあたりをつける。

少年の方は少女より何歳か下のようである。12〜13歳といったところだろうか。

どちらにせよ先ほど話していたばかりの彼よりはずっと成長しており、イザベラは戸惑う。

とにかく彼らが何を言い争っているのか確かめようと、聞き耳を立てることにした。


「なんで…なんで出てくなんて言うんだよ!」

「別に…理由なんて何だっていいでしょ」

「よくねーよ!学校はどうすんだよ…!」

「やめるわ」

「はあ!?よくそんな簡単に言えるな!あの学校に入れることがどれだけすごいことかわかって言ってんのか!?」

「分かってるわよそんなことくらい!」

「冒険なんて卒業してからだって出来んだろ!?」

「無理よ今しかないの…!私はあいつらと一緒に行きたいのよ!」

「でもお前その年じゃ冒険者にだってなれないじゃないか!」

「それでもいいって言ってくれたの!旅に出るのはいくつだって出来るわ」

「お前!騙されてんだよ!あいつらに!!」

「セレナとテオのこと悪く言わないで!!!」


(ん…?聞き覚えのある名前…セレナとテオって…私の両親じゃない!!?)


ローザが両親と共に冒険に出ていたのは何となく察していたものの、まさかそのことがローザが街を出るきっかけになっていたとは思わなかった。

それも冒険者になれる年齢の前に!なんと思い切った行動だろう。

イザベラはあまりの事実に固まってしまった。


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