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120 ローザの葛藤

イザベラの反応が薄かったのが気に食わなかったのか、サイラスは目に見えてむっとした。


「俺の家とアイツの家の親、仲良いんだ。だから俺子供の頃からアイツとはよく一緒にいるんだけど」


今でも十分子供なのにそんな少年から子供の頃なんて言われると思わず笑いそうになってしまう。イザベラは慌てて笑いを堪えるはめになった。


「アイツ…本当に魔道士になりたいのかな」

「え?」


それは聞き捨てならない。イザベラの知るローザは確かに天才魔道士であった。

さらに言えば魔道士であることを誇りに思っているように感じたし、彼女から魔道士に対する葛藤のようなものを感じたことは一度もなかった。

だが、そんな彼女も幼少期は違ったのだろうか。不穏な流れにイザベラの表情が曇る。


「お前さ、魔道士なんだろ?」

「ええ、そうよ」

「しかも黒魔道士だ。……アイツと、多分同じだと思う。まだはっきりとはわかんねーけど」

「そう」

「黒魔道士って、どう思う?」

「え?」

「アイツ言ってた。白魔道士は皆から感謝される素晴らしい職業だけど、黒魔道士は人を傷つけるだけだって。いくら攻撃力があったって何の意味もないって」

「……」

「俺はさ、黒魔道士好きだよ。だってかっこいいじゃん。でもアイツはそれを言った俺のことをバカにしてきてさ」


なるほど、ここで先ほどの俺をバカにした発言につながるというわけか。

なかなかに複雑そうな問題だ。確かに白魔道士はヒーラーとしてパーティに多大な貢献をする。もしくは盾もそうだ。盾は文字通り皆を敵から守る役目である。どちらもパーティへの貢献度合いは高い。

だが、それ以外の職業…黒魔道士はどうだろうか。

イザベラ自身仲間を募る際、かなり苦戦したように、パーティへの貢献度合いは分かりにくい。というより他の職業と火力といって一括りにされやすい職業ではある。

火力はシークなど特殊な職業を別として、基本的に替えのきく職業である。もちろんイザベラだってそうだ。

さらに言えば物理職と異なり、魔法職は打たれ弱い。つまりどうしても遠距離攻撃中心となるため、ある意味で卑怯とも取られかねない。


ただここで言うローザの人を傷つけるという言葉はまた違ったニュアンスだと感じた。

どちらかというと黒魔道士という職業自体を忌避しているような…?

彼女に一体なにがあったのだろうか。

その蟠りを解決することがこの世界を出ることに繋がるのだろうか。

ここでの出来事が元いた世界の出来事に繋がっているとはさすがに思えないが、少なくともここを出るヒントくらいにはなるのではないかと思案する。

とにかくサイラス少年の傍にいることは確定だろう。

そこまで考え、あらためてサイラス少年をじっと見据えた。

彼は少し警戒を解いてくれたのか、きょとんと首を傾げた。

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