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12 デート報告会

翌日、イザベラはいつものように日課をこなすべくギルド協会へ来ていた。

目の前にはやけにソワソワとしたイレーナがいる。

(そうよね、気になるわよね…)

きっと彼女は、ついにイザベラとエリックが付き合い始めたと思っているのかもしれない。

実際はただ焦らされて終わっただけなのだが。

だが、彼女の協力があってこそ彼が多分イザベラに告白しようと決意したのだ。お礼をしておかなくてはなるまい。


「イレーナ、ちょっといいかしら?」

「はい!なんでしょう?」

「あの…今晩空いてる?仕事終わりに、一緒にご飯でも行かない?」

「ぜひ!」


きっと告白の報告だ!とニコニコするイレーナを前に、イザベラの心が傷んだ。告白されなかったという報告をするのもどうなのかとも思ったが、あの調子では明日もエリックに告白してもらえるとは限らないので、報連相は早めに行うに限ると判断したのだ。

(それに、イレーナとももうすぐお別れだし…せっかく友人ができたのになあ。この世界って遠く離れた人とはどうやって連絡を取り合うんだろう。イレーナが仕事でパソコン端末のようなものを使っているところを見る限り、携帯電話があってもおかしくないんだけど…)

今のところそれらしきものにはまだお目にかかっていなかった。後で両親にそれとなく聞いてみようと心に留めておく。


「じゃあ、またクエストが終わったら報告に来るから、そのときに時間と場所を決めましょう」

「ええ、楽しみにしていますね。行ってらっしゃい、イザベラさん」


複雑な思いでイレーナに別れを告げ、イザベラはクエストへと向かうことにした。



その夜、イレーナの仕事が終わるのを待って、イレーナオススメの食堂へと向かった。

田舎なのであまり店の選択肢がないながらも、さすがイレーナのチョイスということもあり、店内は賑わっていて、お酒も料理も美味しかった。

二人ともひとまずは料理とお酒を楽しむことにする。イザベラは酒の強さが未知数だったため、ペースを落とし気味に飲むことにした。一方イレーナは酒豪なのか酒を飲むペースは速い。


ちなみに今日もエリックのクエストはこなしてきた。昨日の今日で顔を合わせるのは少々気まずいなあと思っていたのだが、イザベラが温泉宿に訪れたとき、丁度エリックは別の客の応対中で、そばにいた別のスタッフに花を預けてきたため、今日は会話せずに終わってしまったのだ。がっかりなのか安堵なのか、なんとも言えない気持ちを覚えたイザベラである。


「それで、エリック様とは無事お付き合いなされたんですか?」

「えっ、…ええと…それなんだけど…」


突然振られた話題にどきりと心臓が跳ねた。どことなく目の据わっているイレーナは絶対既に酔っている。絡み酒でないことを願うばかりだ。


「お付き合いはしていないわ。貴女がエリックに助言してくれたんですってね、ありがとう」

「ええ!?信じられない…どうして…あのチキン野郎…」

「イレーナ!?」


あまりの豹変っぷりにイザベラが慄く。


「失礼しました。その、勝手なことをしてしまい申し訳ありませんでした。ただどうしても見ていられなくて…だってイザベラさんたちってどう考えても…その、両想いじゃないですか」

(そうよねー、もっと言ってほんと)

イレーナの言葉に内心赤べこのように頷いていたイザベラであったが、伏し目がちに戸惑いを含めた笑みを浮かべて見せる。


「そう、なのかしら…。そうだと嬉しいのだけれど…」

「ええ!私が断言致します!…ただ、イザベラさんはもう少しでこの町を出て行かれるおつもりなんでしょう?それで、エリック様もなかなか言い出せなかったんでしょうか」

「どうかしらね…。まあ、確かに彼とはどちらにせよこの先離れてしまうことに変わりはないわね」

「そんなの!いくらでも待つって言えばいいだけじゃないですか!私だって寂しいですよ!イザベラさんと離れるの!でも待ちます!また帰ってきてくれますよね?」

「ええ、もちろんよイレーナ」


本当にイレーナは純真でいい娘である。この娘と仲良くなれたことだけでもイザベラにとっては価値ある期間だったとすら思えるほどだ。


「私、応援してますね。お二人のこと」

「ありがとう、イレーナ」

「ですから、その…私ともこれからも会ってくださいね!私のこと忘れないでください!!」


ついにイレーナがわんわんと机に突っ伏して泣き出してしまった。もしかしてエリックとの話が気になってたというより、単にイサベラとの別れが寂しくて誘いに乗ってくれたのだろうか。

真相は定かではないが、こうも素直に好意を見せられると面映い気持ちになる。


その日は、イレーナの気が済むまで、イザベラは彼女の髪を撫でて抱き締めてあげることにした。


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