119 サイラス少年
イザベラが沈黙を貫いたまま笑みを刻んだため、サイラス少年はあからさまに怯え引き攣った悲鳴を上げた。
「な、なんだよ!お前何者だ!?」
「あっ、ごめんなさい。怖がらせちゃったかしら…ええと、どこからきたかは言えないんだけど…何のために来たかなら言えるわ」
「は?じゃあ何のために来たんだ?」
「それはね、あなたを助けるためよ」
「……は?別に俺何も困ってねーけど」
「そう?本当に?さっきの女の子から逃げてたわよね?」
「そんなことねーよ、気づかなかっただけ」
「さっきの子、ローザよね?」
「……ローザのこと、知ってるのか?」
「もちろん。言ったでしょ?あなたを助けるために来たんだって」
「……。」
サイラス少年は未だ強くイザベラのことを警戒していた。当然だろう。
まだそこまで深く言葉を交わしたわけではないが、サイラス少年は決して純粋無垢といった印象ではなかった。
どちらかといえば年齢のわりに猜疑心が強そうである。
とにかく今は彼の信用を勝ち取ることが先決だろうと判断し、あれこれと話しかけてみることにした。
魔法を用いて(ありがたいことに魔法は使用可能であった)木を登り彼の隣の枝へと腰を下ろす。
サイラスはぎょっとした顔で、お前女だろ!?と焦っていたが、年のわりに古臭い考えを持っているようだ。
いや、小さいからこそ親の影響でも受けているのだろうか。
イザベラは男だの女だのに偏見を持つタイプでも、偏見を持った人に対しても特に何も思うところはなかったが、男とはまだ呼べないほどに幼いにも関わらずそのような口をきくサイラスは何だかおかしかった。
(むしろ大人のサイラスさんの方はそんな雰囲気を感じなかったんだけど…)
うまく隠しているのか、はたまた価値観が変化したのか。
そういえばこの少年は女ならこうしろと今にも言いそうであるのに、同じく女性であるローザからは先程逃げ回って隠れていたように思う。
色々と矛盾点が多いが、この年頃ならそんなものだろうか?
イザベラは内心首を傾げた。
「ねえ、どうしてローザから隠れてたの?」
「隠れてねーよ!」
「うーん…じゃあ質問を変えるわね。どうしてローザの前に姿を見せなかったの?」
「それは…、アイツ、俺のことバカにするから…」
「そうなの?」
自分の年の半分ほどの子供をバカにするものだろうか?それなくとも女子は男子よりも成長が早い。
ローザも遠目から見ただけであるが、おませな印象を受けた。
そんな彼女がこんな幼い少年を?
イザベラが胡乱げな視線を送ったからだろうか、サイラスが慌てて続ける。
「アイツ、すげー魔道士なんだよ…!あの年でもう色んな魔法使えんの。……天才って呼ばれてる」
「そうなんだ」
ローザは幼い頃から優秀だったのか。イザベラの中のローザ像と合致するので、素直に感嘆する。




