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117 知らない世界

イザベラが目覚めたとき、見知らぬ草原にいた。


「……え?ここどこ…?」


どう見てもセーブポイントではない。女神のいる場所でもない。

ということは自分は死んでいないということだろうか?

周囲を見渡したが、人の気配はないようだ。


サイラスは、試験官は一体あの後どうなったのだろう。


意識を失う前、あれだけの痛みを感じたにも関わらず、身体を見ても今は傷ひとつ負っていない。


「もしかして…ここは何か精神世界か何かかしら…」


身体は今も傷だらけで良くてあの場で横になっているかもしれない。

悪ければ、まあ精神世界にい続けることすら不可能な状態になるだけだろう。

どちらにせよ、ここがどこか探る必要があった。

何が目的でここに飛ばされたのかも含めて。


「はあ…ノーヒントはつらいな…」


どこに向かって歩けばいいのかも分からない。

ため息がこぼれても仕方のないことだろう。一刻も早く目覚めなければ。皆がピンチに陥っているかもしれないというのに。

何もできない自分がもどかしくて仕方がない。

結局サイラスのいうことも聞いてあげられなかったし、サイラスを守ることもできなかった。

ことごとく自分の役立たずさに嫌気がさす。

肩を落としてとぼとぼと歩いていると、何処からか子供の声が聞こえた。


「サイラス!」


少女の声だ。それにしてもサイラス、とは…。まさかサイラスも自分と同じようにこの世界に飛ばされてしまったのだろうか。

であれば合流しようと駆け足で声のした方へと向かう。


するとそこには先程サイラスの名を呼んだ少女の姿があった。

10歳前後くらいだろうか。艶のある黒髪は肩までのボブカットで、口許には子供らしからぬ色っぽいほくろが一つ。大きな黒い瞳はこちらをまだ認識していない。

少女の姿を一目見たイザベラは咄嗟に木の影に姿を隠してしまった。


(う、嘘でしょ…あの女の子めちゃくちゃ見覚えあるんだけど…!まさか…)


どうやら少女はサイラスを探しにきたようだ。

だがサイラスの姿はここにはない。

少女は何度かサイラスの名を呼んだが、反応がないことを知ると年に似つかわしくない溜息を零してからその場を去っていった。


「あれってどう見ても…ローザ、よね…」


少女の背を見ながらイザベラはぽそりと呟く。

どうしてローザがこんなところに?しかもどう見ても少女だ。


「一体どういうことか分からないけど、ややこしいことになっていそうなことだけは理解できたわ」


ここが精神世界かどうかは分からない。だが少なくとも時空は超えてそうだ。


(過去に戻ったってことか…でも変だわ、どうして私の過去ではないの?)


普通過去に戻るのであればイザベラ自身のものというのが最も考えられるのだが。

ローザの年齢から考えてどう見てもイザベラは生まれていない。


(もしくは未来?ローザっぽい女の子は実はローザの娘だった、とか…?でもどう考えてもローザの雰囲気がしたのよねえ…)


正直お手上げである。

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