116 試練⑤
イザベラが躊躇ってる間にも事態は急変してゆく。
響き渡ったのは悲鳴だった。
「えっ」
悲鳴の主は?と慌てて目で追うと、サイラスが腕を庇って倒れ込んでいた。
(まさか…!)
やられたのか!?サイラスが!?
サイラスの腕からは血が流れ出ている。あれではもう杖は振れないだろう。
試験官(仮)の攻撃がそれで済むはずがなく、今や宙へと浮くその姿はサイラスに止めを刺そうとしているようにしか見えない。
「っ、間に合え…っ!!!」
出来る限りの魔力を込めて杖を振った。
咄嗟に出たのは得意である光魔法だ。
(あれは…!)
自身が咄嗟に放ったとはいえ、現れたのはエルフの少年を倒した時と同じ稲妻で出来た光の神獣であった。
(どうして…!?)
神獣はイザベラの命を受け、試験官(仮)に襲い掛かる。
咄嗟に飛び退いた試験官だったが、その振動の大きさから彼の上に大量のつららが落下してきた。
「守って…!」
つらら石は傍に居たサイラスの上にも同じように降り注いだが、イザベラの叫びに反応して神獣がサイラスを庇うように覆いかぶさる。
(神獣…私一人の魔力ではまだ出せないはず。あの時出せたのは魔王の力があったから…じゃあ今は?…もしかして、また…っ)
戦闘中にも関わらずそんなことを考えていたからだろうか。
イザベラに隙が生まれてしまった。
気付いたときには目の前に試験官の姿があった。
「……っしま…っ」
神獣はサイラスを守っておりイザベラのそばには居ない。
続けて魔法を出すこともできない。
(詰んだ…)
まさかこんなところで終わるとは。セーブポイントはどこだっただろうといつになく思考が冷静であった。
試験官がゆっくりと片手をイザベラに向けてかざす。
試験官とは間近で向かいあっているはずなのに、その顔はフードに覆われていて確認できない。
やはり人間ではないのだろう。
かといって完全にモンスターというわけでもない。もしかすると何者かに操られている線が濃厚か。
いずれにせよ、今のイザベラに対抗手段はない。
良かったのはサイラスも試験官も死に至るほどの傷を負っていないということだけだろうか。
試験官から放たれた魔法を真っ向から受け、イザベラの全身に鋭い痛みが走る。
(私…ここで死ぬの…?)
イザベラは自身の意識がゆっくりとブラックアウトしてゆくのを感じた。




