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115 試練④

来た時とは逆に、サイラスの案内で先程の試験官らしき人物が立っていたところまで共に戻ることとなった。

サイラスは特に何か言葉を口にすることはなかった。

イザベラとしても今はとてつもない疲労感に襲われており、あまり喋る余裕がないのでありがたい。


元の場所に戻ると、試験官が寸分違わぬ様子でそこに立っていた。


「無事試練を突破致しました」


報告すべきかと思い、イザベラが一歩前に進み出てそう告げる。

だが、試験官は無反応であった。

何かかけるべき言葉が違ったのだろうか。やはり見届け人であるサイラスから何か言うべきだったのか?と振り返れば、なぜかサイラスが動揺を見せていた。


「……下がれ…!」


そして思いがけず強い力でサイラスに腕を引っ張られ、受け身も取れずに背後へ飛ぶ形となった。

一体何が起こったのか理解できないまま自身のいた箇所を見ると、先程まで立っていた地面が大きく抉れている。


「……え…?」


呆然と意味を成さない言葉を発すると、試験官がおもむろに口を開いた。


「汝、如何様か」

「汝、いかいか。汝ななななななななんじ」

「いかかかかかかかようか」

「…っな、なに…!?」

「分からん」


壊れた人形のように決まったセリフを繰り返す試験官に恐怖を抱き、後ずさる。

サイラスを仰ぎ見たが、彼も心当たりがないようで首を左右に振るだけであった。


「あの、逃げた方がいいのでは?」

「……そうだな、そうしよう」


だが逃げるためにはあの試験官の隣を通らねばならない。

未だ一歩も動いてはいなかったが、いつ襲いかかってきてもおかしくはない状況に焦燥感が募るばかりであった。


「私が先に行く。君は全力で逃げなさい」

「えっ、でも…!」

「いいから。これは試練ではない。理由は分からないが、よくないことが起こっていそうだ。早く外に出て確かめなければ」


確かにここだけで済む問題ではないのかもしれない。同時に試練を受けているであろうシャーロットのことも気がかりだった。

サイラスは学園のことが心配なのだろう。指揮責任者が居なければきっと困っているに違いない。

実力から言えばイザベラはサイラスに及ぶはずがないので、躊躇ったが素直に頷くことにした。


逃げろ、サイラスはそれだけをイザベラに伝えたかと思うと、凄まじい勢いで試験官へと向かっていった。

そこには先程まで一切なかった殺気が込められている。


(まさか…殺す気なの…!?)


まだ操られているだけかもしれないのに殺してしまうのか?とぎょっとしたが、どうやらそれは注目を自身に引きつけるために行ったようだった。

試験官(仮)の注意がサイラスに向いたのを感じる。


(私はここで逃げるのよね…)


本当に自分一人で逃げてもいいのだろうか。ふとそんな考えがよぎる。

自分が足手纏いであることは承知している。だが…こんな大事な局面を果たしてサイラス一人に任せてもいいものなのか。

当然ながらその答えを教えてくれる者など誰もいない。

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