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112 試練①

ランクアップの試練を行うという洞窟は街の外れにあった。

街も特に都会的とは言い難い景観であったが、この洞窟周辺は神聖な森のような空気を感じる。

まさに試練を受けるに相応しい場所だ。

ここで暮らす魔道士たちは試練の度にこの洞窟へと訪れているのだろうか。

見上げるほどに大きな洞窟の入り口でイザベラは考えに耽った。


「さて、それじゃあ私たちも行こうか」


不意に声を掛けられ、思わず肩が跳ねる。

声がした方を見上げるとサイラスがイザベラの顔を覗き込んでいた。

周囲を見渡せばいつのかにかシャーロットたちはいない。


「ええと、シャーロットは…」

「既に出発したよ」


なんといつの間に。シャーロットも何か声を掛けてくれればいいのに。応援することもできなかった。改めてクールな女性である。


「すみません。私ぼーっとしちゃって…」

「いや、準備はできたかな?」

「ええ、その…よろしくお願いします」

「私は君と共に中には入るが、あくまでも見届け人だ。手助けしてもらえるとは思わないでくれたまえ」

「もちろん。承知しております」


洞窟の中へと足を踏み入れる。さくっと乾いた音が響いた。何か草でも踏んだのだろうか。

中は暗く、明かりすらない。

迷ったが、光を灯すことにした。もし何か集まってきてもそれはそれ。全部倒してしまえばいいのだ。範囲魔法は得意である。


「光よ…」


イザベラの杖の先に光が灯る。洞窟はどうやら鍾乳洞のようだ。

中はひんやりと肌寒く、至る所につらら石が散見できる。

落ちてきたら痛そうだなあ、ライトアップしたら綺麗だろうなあなど考えながら進んでゆくと、少し足場の広い場所に出た。

先を行ったシャーロットたちは一体どこにいるのだろうか。

ちらりとサイラスを振り返ってみたが、彼は宣言通り助言をすることはないようだった。

仕方なく光を掲げて前方を見ると、奥まったところに人の姿があった。

フードを被り佇んでいる人物が、試験官だろうか。

首を傾げつつ歩み寄ると、フードでいまいち顔が見えないもののその人物がこちらへ注意を向けたのが分かった。


「汝、如何様か」

「ランクアップの試練を受けに参りました。あなたから受ければよろしいのでしょうか」

「ほう…黒魔道士で違いないな?」

「はい」

「ランクはD。…Cランクになりたいと申すか」

「ええ、その通りです」

「理由は?」

「……強くなりたいから」

「浅いな」


あっさりと言われ表情が曇る。ランクアップにそれ以外の理由なんてあるのか?と逆ギレしたい気分であった。


「見届け人は其方か?」

「ああ」

「汝は此奴をどう思う」

「未熟だが、向上心はある」

「……ほう?」


まさかほぼ初対面のサイラスの評価を聞くことになるとは思わず、イザベラは何とも言えない気持ちになった。

やはり客観的に見て自分はまだまだ未熟であるようだ。


「向上心は時に身を滅ぼす。気持ちと実力に乖離があれば周囲をも巻き込むだろう」

「分かっています。だからこそ、その差を私は埋めたい」

「……ふ、青いな」


一体この人はいくつなんだ?そもそも人なのだろうか。

先程からやけに言葉選びが挑発的だった。

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