110 意外な一面
「イザベラさんは魔王の攻略をするために冒険をしていると言っていましたよね」
「ええ」
「今でもその気持ちは変わっていませんか?」
「……え?」
二人の間に風が駆け抜けた。
イザベラとシャーロットの髪が風に煽られ、二人の表情を覆い隠す。
右手で自身の髪を掻き上げながら改めてシャーロットの顔を伺い見たが、その表情からは何の感情も読み取ることができなかった。
(どういう意図の問いかしら…)
唐突な質問にイザベラは眉を顰める。まさかここで抜ける…とか言わないわよね?
シャーロットは最後までそばにいてくれると思ってたのに…!
イザベラの内心はぐるぐると忙しなく渦巻いていたのだが、如何せん彼女もあまり感情が面に出ないタイプである。
無表情のまま二人が向き合い、しばしの時間が流れた。
そして、悩み抜いた末イザベラが口を開く。
「ええ、もちろん。私の目標は変わってないわ」
「……そうですか」
(この反応はどっち…!?)
動揺を隠しつつも、じっくりとシャーロットの様子を伺う。
うまくいけば彼女の様々な想いを聞くことができるかもしれない。
「ではやはりここでランクアップを共に目指すべきですね」
「え?ええ、そうね…今のままじゃ私皆の足手纏いだもの。もっと頑張らなきゃ」
ぐっと握り拳を作って見せると、シャーロットがきょとんと目を瞬く。
「そうでしょうか?」
「ええ、皆に比べて私一人実力が足りてないでしょう?」
「そうは思いませんが…。確かにリアムさんとノアさんはかなりの実力者ですが、彼らはなんといいますか、あまり比較対象にならないような気がします。それ以外の一般的な冒険者としてみるのであれば、イザベラさんはBランククラスの実力を十二分に持っていると思いますよ」
「そ、そう?」
実のところ、イザベラの接してきた冒険者の数は非常に少ない。なので基準を勝手にリアムやノアにおいていたのだが、やはり彼らは規格外のようだ。
ゲームの主人公としては彼らと同じくらいかもしくはそれ以上の実力を有していたいところではあるのだが、贅沢は言うまい。
このゲームがなかなか世知辛い設定だということは理解しているつもりである。
それなりの経験者であるシャーロットの言葉は、一般論としてすんなり受け止めることができた。
「彼らと自分を比較して落ち込んでいたんですか?……なんだか意外でした」
「えっ?」
「イザベラさんは自信家で、彼らを自身の駒のように使ってやるわ!と思っているのかとばかり」
「ええっ?ふふっ、なによそれ!私のイメージどうなってるの?」
思いがけないイザベラ像を聞かされ、イザベラは思わず吹き出す。
確かに見た目と口調からいうと、シャーロットの言うような印象を持たれがちなのかもしれない。
リーダーとして振る舞わねばと自身が思う以上に演出して見せている部分もある。
ある意味それは正しい姿であるのだが、実情とかけ離れた姿を見られるとおかしさが込み上げてきた。
自分が彼女をまだ理解できていないように、彼女も自分のことをまだ理解できていないのだ。
シャーロットを知るためにはまず自分のことを知ってもらおう。
そう心に決め、イザベラは日が暮れるまでシャーロットと語り合うことにした。




