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11 初めてのデート

異性と二人きり、草原で花を摘む。

これ以上ないほどの実にロマンティックなシチュエーションである。

(今日こそはエリックに告白させてやるわ…)

おおよそロマンティックでないことを考えている人物が一人、イザベラである。

イザベラの並々ならぬ熱意は、現在モンスターへと向けられていた。

炎魔法の扱いにも大分慣れてきて、今では一度に3匹までなら同時に倒せるようになった。

(ただ…魔力消費がきっついのよね…)


この世界は、分かりやすく体力や魔力がHPやMPとして数値化しているわけではない。

なんとなく、実感として存在しており、それぞれ回復薬を飲むと回復したなあと感じられるくらいである。

しかも厄介なことに魔力が尽きると、ただ魔法が発動できなくなるわけではなく、どうやら体力を削って無理やり発動しようとするようだ。

そうなるとかなりの疲労感が生じる。慣れてくれば自分のキャパが掴めるようになってくるのだろう。

イザベラは以前何度か魔力切れを起こし、一度は倒れそうになった。戦闘中に気を失うわけにはいかないので、魔力のコントロールはかなりの重要課題だろう。


エリックは昨日言っていた通り、こまめにイザベラを回復してくれた。

(なんか…普通逆よね…まあいいか)

せっせと回復してくれるエリックを庇いながら戦うイザベラ。なんと勇ましいのだろう…。

モンスターを倒すたびに、エリックは過剰なまでに賞賛してくれた。

誰かと共にクエストをこなすのが初めてのイザベラは何だかくすぐったい気分であった。


「凄いね。ついこの間冒険者になったばかりとは到底思えないよ」

「本当?嬉しいわ」

「ああ、君はいつだって本当に…」


不意にエリックの顔が曇る。疑問に思ったイザベラは彼の傍へと寄った。


「イザベラ、君は本当に美しい。それに…黒魔道士としての実力も確かなんだろうね。この先、君は町を出てもっと大きな実績を残していくのだろう。……それに比べて僕は…。」


エリックの表情は暗いままだ。イザベラはようやくどうして今までエリックがイザベラに告白をしなかったのか、その理由を理解した。

(私が高嶺の花過ぎたんだわ…!)


やや自意識過剰気味に聞こえるが、あながち間違ってはいないだろう。何せ今のイザベラは絶世の美女であるうえに黒魔道士という新たな能力を開花させたのだ。黒魔道士としての実力が如何程のものなのかはまだ未知数であるが、エリックに冒険者としての適性がなかったというのであれば、イザベラがそれなりに選ばれた存在であることが分かる。

イザベラが黙っていると、エリックが続けて言葉を紡いだ。


「僕は、きっと君の幼馴染という立場に甘えすぎていたんだ。君が僕に向けてくれる優しさだって、無条件にいつまでも与えられるものじゃない。…ずっと分かっていた、けど…見ないふりをしていた」

「…君が町を出ていくと聞いたとき、本当にショックだった。今まで君が居なくなる未来を想像したことがなかったんだ。それでも君が冒険者になって毎日僕のためにクエストを受けてくれて…毎日君と会えるのは嬉しかった。嬉しくて…ずっとこんな日々が続けばいいのにと、願ってしまった」

「けれど、僕は…ただの小さな宿屋の息子でしかない。きっと将来僕はこの町で宿屋を継ぐことになるだろう。未来ある君を、そんなところに縛り付けるなんて…」

「……いや、これも全部言い訳に過ぎないな。僕に勇気さえあれば、きっと何処へだって行けるはずなんだ。でも僕には…何もかもを捨ててこの町を出ていく勇気がない」

「……エリック…」


「昨日、クエストの依頼をしに行ったとき、イレーナさんに声をかけられたんだ」

「え?イレーナ?」

(あれ?今完全に告白の流れじゃなかった??)

予想外の方向に進んだ会話にイザベラが疑問符を浮かべた。


「彼女に君がどうして僕のクエストを毎日受注しているのか、もっと考えるべきだって言われたよ。君は本当はもっと高い実力があるんだろう?それなのに、僕のクエストを受けてくれている。その意味を…」


はっとイザベラは目を見張る。イレーナが背中を押してくれたのだ。だから今日こうしてエリックがイザベラをデートに誘ってくれたのだろう。

(ナイスよイレーナ!)

「それでようやく決意したんだ。本当は言うつもりなんてなかった…この気持ちを押し付けても、君を困らせるだけだと分かっていたから。…でも、どうしても伝えておかないと後悔すると思って」

「エリック…!」

「イザベラ…、明後日の夜、またこの場所に来てくれるかい?そこで、君に伝えたいことがある」

(今じゃないんかいいいい!)


イザベラは崩れ落ちそうになるのを何とか耐えた。どれだけ焦らすつもりなんだ?というかもはやもう告白したも同然だろ。これクリアで良くない?

もちろんそんな内心は微塵も見せず、イザベラはエリックに微笑みかけた。


「ええ、分かったわ。エリック」

「ありがとう。…僕も、ちゃんと勇気を出すよ」

「楽しみにしているわね」

「ああ。それじゃあまた」


いそいそと一人帰ってゆくエリック。

一人取り残されるイザベラ。思わず頭を抱えてしまう。

(告白されるって…なんて難しいの…)


「まあとりあえず…セーブ!」


どこまでも広がる青空に、イザベラの声が響き渡った。


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