108 一人悩む
与えられた個室でぼんやりとイザベラは考え事をしていた。
彼女の頭にあったのは花の都市で別れを告げたジーンである。
ジーンとジーンの兄弟たちはイザベラたちが旅立つとき、彼らもすぐに旅立つのだと言っていた。
イザベラから学んだ魔法薬を売り捌きつつ、彼らが住みやすい土地を探す旅に出るのだと。
兄弟の中には小さい子供もいる。旅は決して楽なものではないだろう。
いくらかコンテストの賞金を渡してはきたものの、自身で稼ぐ手がなければすぐに底をつく。
(あんな小さな子たちが大人の庇護もなく、学校にも通わせてもらえずに旅立たなきゃならないなんて…)
はあとイザベラの口から何度目かの溜息が溢れ落ちた。
ジーンたちはカラッとした笑顔で元気で生きていられるだけで幸せだと言っていた。
多少は強がりも混ざっているかもしれないが、心からそう言っているように思えた。
(なんて強い子たちなんだろう…。私は、誰かに甘えてばかりなのに)
そういうゲームでないことは理解している。生きることに儘ならないなら恋愛なんてどころではないのだ。
彼らのことにしたって、そういうキャラ付けなんだろう。設定としては重めだが、こういう世界だ。
ありえない話ではないし、彼らが健康そうにしている分彼の言う通りそれなりに幸せであるようにも思える。
だが、そうはいってもここまでリアルな世界観に接していると、ゲームだと割り切れないのが本心だった。
(いちいちこうやってダメージを受けてばかりなんて…私向いてないのかな)
今更ながら苦々しい感情が浮かんできた。
こんな考え事をしてしまう理由は一つだ。少し余裕が出てきたからに他ならない。
リアムたちと船で分かれてしまって以来、こんな風に考え事をゆっくりできる時間など一切なかった。
それこそ生きるか死ぬかの瀬戸際だったのだ。
それがこうして個室を与えられ、一人で過ごす時間ができるようになるとは。
(ここでしなきゃならないことって何かしら…。そういえばノアやリアムって攻略キャラなのかな)
ふと新しく仲間になったノア、それから最初の仲間であるリアムの顔が頭をよぎった。
彼らはスペック的にどう見ても攻略対象者なのだが、フラグが立つようで立たない。
仲間になってくれたことを考えると、攻略後は別れてしまうこともあり、すぐには攻略できないようになっているのかもしれない。
(でも少なくとも魔王がラスボスってことは、それまでにクリアするってことなのよね?だったら魔王と対峙するとき二人はいないってこと?私とシャーロットだけ!?)
その時シャーロットがいるかどうかも怪しいが、恐ろしすぎる未来だった。
絶対に勝てる気がしない。魔王に一目惚れされるレベルでないと無理だ。
絶望的な未来に愕然としていたイザベラの耳に、控えめなノックの音が響いた。




