107 学園長サイラス
学校は今丁度授業中のようで、生徒たちの気配は然程ない。
シャーロットは迷いない足取りで建物内を進んでゆく。
彼が勤務していたと言っていたが、シャーロットも初めてここに来たとは思えない。
だがシャーロットが勤務していたのであれば、自分が働いていたというのだろう。あんな言い方はしないはずだ。
ということはシャーロットはここの卒業生ということだろうか?
であればこんな風に中に入れてもらえたことにも納得がゆくのだが。
イザベラが思考を巡らせていると、シャーロットは一つの部屋に入っていった。
上を見るとそこには「学長室」というプレートがかかっている。
(学長室…!?)
一体シャーロットは何者なんだと驚きつつも、イザベラは後に続いて部屋に入った。
室内はシンプルな造りで、応接室のようなイメージだ。
来客を対応するためだろうか、中央に置かれているソファには、一人の男性が腰を下ろしていた。
「……サイラスさん」
「シャーロット。久しぶりだね」
「はい…ご無沙汰しております」
サイラスという男性が学長なのだろうか。
学長のイメージからは大分と若い。30代後半…くらいだろうか。
色白で少し長めの黒髪を後ろで一つに纏めており、きつめの顔つきはどこか近寄りがたい。
瞳の色は薄い茶色だった。全体的に色素が薄いからだろうか、あまり体力があるようには思えない。
魔道士というイメージにはぴったりでもある。
どことなく神経質そうだなあと思いつつ、ちらりとサイラスの視線がシャーロットからイザベラたちに向けられ、思わず心臓が跳ねた。
(やばっ、考えてることが顔に出てたらどうしよう…)
気持ちはすっかり先生を前にした生徒だ。学長よりも現役教師に適任だろう。それも生徒から恐れられるタイプの教師だ。
やや苦手意識を抱いてしまったイザベラであったが、サイラスはそういった反応には慣れているのか特に表情に変化は見られなかった。
ソファから立ち上がり、イザベラたちの前へとやってくる。
対面するとかなりの長身であることが分かる。
リアムやノアも長身だが、彼らと比べてもそう変わらない。
イザベラも女性にしては背が高いと思っていたが、それでも見上げなければならないほどには高かった。
(ま、ますます怖い…)
存在感を消すように肩を竦めつつ見上げていると、サイラスがすっとイザベラに向けて手を差し出した。
「ここの学園長を務めている。サイラスだ。よろしく、お嬢さん」
「よ、よろしくお願いします!」
背筋を伸ばして慌てて手を差し出し握手を交わす。
珍しく、くすりとシャーロットが微笑んだ。
「彼女はイザベラ。それからリアムとノア。私の旅の仲間です」
「そうか。…君たちもよろしく頼む。魔道士なのは彼女だけだね」
「ええ」
ちらりと男性陣に目を遣ってからサイラスが続けた。
冒険者かどうかを気にされたことはあったが、魔道士かどうかを気にされたのは初めてである。
さすがは古の都市。
一通り挨拶を済ませたからか、サイラスが再びシャーロットへと向き合った。
「それで?久しぶりに顔を見せたと思ったら…一体何の用だ?」
「私とイザベラさんのランクアップの手助けをしていただきたく」
「……ほう」
「シャ、シャーロット!?」
ランクアップしたいとは言ったが、まさか学長の手を借りるというのか!?
驚きっぱなしのイザベラに対して、サイラスはシャーロットの言葉を聞くと楽しげに目を眇めた。




