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102 彼の気持ち

完成した魔法薬を皆でしげしげと検分する。

最も驚いていたのは実物を見たことのないノアであった。


「これは…凄いね。なるほど、こんな風に魔法薬の形状を変化させることができるのか」


護符を手に持ち、感心したように呟くノアの姿を見て、ジーンは安堵の色を浮かべていた。


「よくできたわね、ジーン。合格よ」

「……ありがとう、イザベラ」


実際ジーンはよく頑張ったと思う。彼の魔法力はそこまで高くない。そんな彼が魔法薬を一人で完成させるにはかなりの努力が必要だったはずだ。

イザベラの教える時間だけで足りたはずがない。つまり彼は家に帰ってからも一人で人知れず特訓していたということになる。

それだけ彼は本気なのだ。本気で彼の家族を今後も養っていこうと思っているのだ。

盗賊業からは足を洗って真っ当な方法を使って。

そう思うだけでイザベラの口元はつい綻んでしまうのであった。


「その、これから先…この街は出るの?」

「そうだね。ここにはもう居られないよ。また家族が危ない目に遭うのは嫌だし。色んな街を渡り歩くっていうのも手かな」

「そうね。あなたならきっと大丈夫よ」


イザベラが微笑みかけると、ジーンが困ったように瞳を揺らした。


「あのさ、イザベラ…ちょっといい?」

「?…ええ、どうしたの?」

「こっちきて」


皆の前では話しにくいことなのか。頷いて共に宿屋から出ると、宿屋の裏手まで連れて行かれ、ジーンが足を止めた。

向き合って立つと、ジーンがいつになく言いづらそうな表情を浮かべていることが分かる。


「どうしたの?お金の話?」

「ち、ちが…っ!あのさ。本当に…ありがとう。アンタには感謝してもしきれない」

「別にいいわよ。私が勝手にやったことだもの」

「……アンタさ、僕のために一度死のうとしたよね?」

「え?ええ、まあ…そんなこともあったわね」

「なんでそんな自己犠牲的なの?……アンタのこと、ずっと偽善者だと思ってたけど…。そんなことに命をかけられるってわけ?」

「う、うーん…それはなんというか、まあ…その場の勢いもあるけど」

「はあ!?その場の勢いで命かけるなよ!」

「そ、それはそうよね。あなたの言う通りだわ」

「……いや、僕が言いたかったのはそんなことじゃなくて…あのさ、僕アンタのこと誤解してたの謝りたくて。冷たく当たってばっかで…ごめん。人のこと家族以外で信じようと思ったのは、アンタが初めてだったんだ。それに…その、今は家族じゃないけど、いつかアンタと家族になりたいって思ってる」

「……え?」

「分かんない?今の僕じゃとてもじゃないけどアンタと釣り合わないからさ。もっと広い世界を見て、成長して…そしたら、改めて僕の気持ちを聞いてほしい。僕はイザベラと家族になりたい。…ええと、その…もちろん恋愛的な意味で」


正直、青天の霹靂だった。あんぐりと口を開き固まってしまったイザベラに、ジーンは苦笑する。


「なに?そんなに僕の気持ち伝わってなかった?……これでも結構頑張ったつもりだったんだけどな」

「ご、ごめんなさい。全然気が付かなくて…その、ありがとう。嬉しいわ」

「うん。まあいいや。今は僕の気持ちを単に伝えたかっただけだから。次に会うまでは僕のことを忘れないでいてくれる?そうしたら次会ったときは続きから口説くからさ」

「……楽しみにしてるわね」


イザベラの頬が薄く色づく。ここまでストレートに言われると何と返していいか分からない。今はジーンの言葉に甘えておくことにした。


「えへへ、期待してて。イザベラが驚くほどいい男になってやるから。…じゃ、戻ろっか」

「ええ…」


自然に出された手を取る。握った手は少し汗ばんでおり、ジーンの緊張が伝わってくるとイザベラもその緊張が移ったのか、心臓の鼓動音がやけに煩かった。

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