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100 特訓

イザベラが急にぼんやりと思考に耽ったせいで、訝しんだジーンに何度も名前を呼ばれてしまった。

はっと我に返ったときには、拗ねたように頬を膨らませているジーンが目の前に立っていた。


「もう!何度も呼んだのに!どうしちゃったのさ」

「ごめんなさい!ぼーっとしてたわ」

「それで?ここまでできたけど、次は?」


ジーンの手元を見ると、鍋の中に魔法薬の素がある。

色・匂い共に成功しているのが分かった。

本当に物覚えが早い。

ぶっちゃけ、このまま魔法薬として販売することも可能だろうから、最悪最終段階まで覚えられなくてもこれだけである程度生活していくことは可能だろう。


「いい感じね。じゃあ次は魔法薬の媒体となる護符を作りましょう」

「うん。…ねえ、イザベラ」

「なに?」

「僕、あんたにひどいことしかしてないよね?なのにどうしてこうやって何度も僕のこと助けてくれるの?見返りはなに?」

「……見返りって…」

「見返りがないのに、人助けするやつなんて見たことないもん。こう見えても僕人を見るには自信があるんだ。でもイザベラあんただけはどうやってもよく分からない。なんだか…凪みたいだ」

「凪?」

「うん。誰もがそこでは穏やかな気持ちになる。荒んでた気持ちもいつの間にか鎮まるような…。あんたみたいな人には今まで会ったことがないや」

「そう?そこまでできた人でもないんだけどね」


ジーンの思わぬ高評価にイザベラは苦笑する。そこまで買い被られると何とも面映い。


「あんたの仲間たちは結構分かりやすいよ。ピンクのお姉さんは金に忠実で、剣のお兄さんは理屈っぽい。召喚士のお兄さんは損得で動く」

「そ、そうなの?よく見てるのね」


リアムやシャーロットはまだしも、ノアはイザベラにとってまだ理解しきれていないのだが。ジーンから見ればイザベラよりも分かりやすいというのか。やや意外である。


「うん。でもあんたは…分からない。善人ってわけでもなさそうだし…それなのに損得や理屈を超えた何かで動く。感情で動くってわけでもないでしょ?」

「まあ、そうね。…自分でも分からないわ」


肩を竦めて降参の意を唱えると、くすりとジーンが笑った。


「お姉さんが分からないんじゃ、僕が分かるわけないよね。何だか不思議な人だなあ…っあ!失敗しちゃった!」


ジーンの声に彼の手元を見る。彼の言う通り上手く魔法が馴染まなかったようで、手のひらの上にはバラバラになった護符があった。


「ふふ、結構集中力がいるのよ。少し休憩しましょうか。シャーロットが美味しいパン屋さんを見つけてきたんだけど、そこのタルトが最高なのよ」


ジーンの喉がごくりと鳴った。

その日はのんびりとお茶会をして互いの話をしたり、残ったタルトを家族のお土産と言って包んだり、練習をリアムたちが戻ってくるまで行ったりと充実した1日となった。


ジーンの未来がより良いものになるよう尽くせることは、イザベラの気持ちを温かくさせた。

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