決闘
私たちの婚約が発表されてから半月後の休日、村の広場は大勢の村人たちで溢れかえっていた。
たくさんの屋台が出店されて、年に一度の村祭りのように見えるが違う。
剣術指導大会でもない。
今日は、護衛騎士オーランドさんと冒険者レイさんの公開決闘の日なのだ。
◇
「はあ……」
私は、朝から何度目かわからないくらいため息を吐いていた。
『私』をめぐっての決闘なんて、全くもって意味がわからない。
事の発端は、私たちの婚約話を聞きつけたレイさんがオーランドさんへ挑戦状を叩きつけたことだ。
「おまえにミサを守る実力があるとは思えない。俺と勝負しろ」「もし俺に負けたら、潔く彼女との婚約を諦めろ」と言われたオーランドさんは、その挑戦を受けてしまった。
「ホントに負けちゃったら、オーランド君はどうするつもりなんだろうね?」
私の隣で呆れ顔のサラちゃんが、入念に準備運動をしている彼へ冷めた視線を向ける。
今日は仕事にならないので、サラちゃんやグレド様たち治療院の面々も見学に来ているのだ。
「やっぱり、ミサちゃんの周りって変な人が多……」
「あ~サラちゃん、それ以上言わないで!」
(うん、もう認めるよ。私には変人しか寄ってこない!!)
頭を抱えて座り込んでいる私とは対照的に、孤児院の子供たちはお祭りみたいだとワクワクしている。
「ねえ……グレドさま、『けっとう』って何?」
「オーランドさんは、どうしてたたかうの?」
「これはね、男と男の真剣勝負なんだよ。オーランド殿は大事なものを守るため、レイ殿は欲しいものを勝ち取るために戦うんだ。本来であれば、国王陛下が承認されたことに異議を申し立てるのは不敬なんだけど、オーランド殿は正々堂々と受けて立った。だから、私たちは立会人として見届けなければならないんだよ」
「ふ~ん」
「ぼくは、よくわかんない……」
グレド様は子供たちからの質問に対し懇切丁寧に説明をしているが、彼らは首をかしげるばかり。
(グレド様、お願いですから子供たちに余計なことを教えないでください……)
「でもさ、それで負けてミサちゃんを奪われちゃったら、カッコ悪いよね~」
「サラはすぐにそういうことを言う。君はもう少し子供たちに……」
「はいはい、夢のある話をしろって言うんでしょ? でも、世の中の現実を知るのも必要よ」
「社会に出れば嫌でも現実に直面する。だからこそ、今くらいは……」
「じゃあ、グレドが子供たちに夢のある話をしてあげれば?」
「私は、そういうことを言っているのではなく、君に……」
また始まったと、子供たちが苦笑している。
この二人の言い合いは、もはや日常風景と化しているのだ。
マーサ先生は「ミサの婚約が決まったことだし、サラもどうかしら?」と言っていた。
私もサラちゃんとグレド様は結構お似合いだと思ってるのだが、男爵家出身のサラちゃんと伯爵家のグレド様では結婚は難しいのだろうか。
◇
時間になり、オーランドさんとレイさんが広場の中央に出てきた。
手に木刀を持ち、静かに対峙する二人。
今回のルールは、先に降参したり戦闘不能となった方が負けというもの。そして、木刀以外に素手での攻撃も有りとなっている。
木刀での戦いはともかく、素手での勝負はレイさんに分がありそうだが、オーランドさんに勝算はあるのだろうか。
心配だった私が昨日彼に尋ねたところ、「問題ありません!」と自信満々に答えていた。
どちらにせよ、私はオーランドさんの勝利を信じて固唾を飲んで見守るしかないのだ。
まずは、木刀での打ち合いから始まった。相手の急所を狙い、お互いに鋭い斬撃を繰り出している。
やはり木刀では、ややオーランドさんが優勢に見えるが、それでも決め手に欠けるようだ。
激しい鍔迫り合いに、立会人という名の観客は大興奮しているが、私はハラハラして見ていられない。
このままでは埒が明かないと思ったのか、レイさんが突然木刀を投げ捨て素手での勝負に出た。
それを見て、オーランドさんも木刀を置く。
今度は、拳と拳の戦いが始まった。
自分から素手での攻撃に切り替えたこともあり、さすがレイさんの実力は本物だ。熟練のAランクの冒険者は、さすが伊達ではない。
オーランドさんの流れるような連続攻撃を技術で受け流し、そして攻勢に転じた。
力任せに叩き込まれる打撃を今度はオーランドさんが防御するが、そこに余裕の表情はない。相殺するだけで手一杯のように見える。
(オーランドさん!)
私は祈るように彼を見つめる。
防衛一方のオーランドさんへ多重攻撃を繰り出していたレイさんの動きが、少し鈍ってきたように思えたその時、オーランドさんが反撃に出た。
渾身の一撃を、レイさんの鳩尾に打ち込んだのだ。
防御もできなかったレイさんはその場に崩れ落ち、ついに勝負がついた。
わあっと大歓声が上がる中、私は急いで二人に駆け寄る。擦り傷と痣だらけのこの人たちの治療を、すぐに行わなければならない。
幸い骨折はしていないようで、二人はすぐに元気になった。
私と同じく心配そうに見守っていたレイさんの弟のシン君、相棒のギルさんもその様子にホッと一安心の様子。
「おまえがこんなに強かったとはな……俺の完敗だ」
「私もどちらかと言えば、剣術より体術の方が得意なのです。それでも、あなたにミサ様を奪われるわけにはいきませんからね、私も必死でしたよ……」
オーランドさんは、元々護身術として体術を嗜んでいたそうだ。
言われてみれば、先日サミーを助けに来たとき、彼はゴルバさんを豪快に投げ飛ばしていた。
剣術は昔から苦手だったが、私の護衛騎士になるために技術を磨いたのだそう。
二人が固い握手を交わすと、観客から惜しみない拍手が贈られた。
「ミサ、幸せになれよ」
「ありがとうございます」
レイさんが手を差し出してきたので、私も応じる。
握手を交わしていると、レイさんがにやりと笑って手をグッと引いてくる。
えっ?と思った時には、私は抱きしめられ額に軽くキスをされていた。
血相を変えたオーランドさんが慌てて私を引きはがし額をゴシゴシ拭いている様子を、レイさんが笑いながら眺めている。
殺気立つ彼に「減るもんじゃないんだから、一度くらいいいだろう?」とレイさんは嘯いた。
和やかな雰囲気の中、公開決闘は終わったのだった。




