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[回想] 運命の出会い(後編)


 

 体力も戻ったエリーナはすっかり元気になったが、魔物の討伐は続いており、オーランドたちはまだ王都へ帰ることはできない。


 村の宿屋は満室で、彼らは孤児院で寝泊まりをしていた。

 エリーナは少しでも恩返しがしたいと、家人と共に率先して孤児院や治療院の手伝いをしている。

 オーランドは皆の邪魔にならないよう部屋の隅からその様子を眺めていたが、気づくと視線はつい少女を追っていた。


 少女の名はミサ。

 平民出身で、オーランドの一つ年上であることを知った。


 毎日運び込まれてくるケガ人を小さい体で一生懸命治療するその姿は、慈愛に満ちており聖女そのもの。しかし、普段はよく食べよく笑いよく話す、ごく普通の女の子だった。

 オーランドはミサと話がしたくて近づいていくが、いつも傍に控えている騎士に阻止されてしまう。

 彼は、彼女専属の護衛騎士ロイだった。





 こちらに来てから、数日が経過していた。

 魔物の討伐はいよいよ大詰めを迎えているようだと、家人たちが話をしている。


 夕食後、オーランドは日課となっている孤児院の庭を散歩していた。

 ぐるりと一周し部屋に戻ろうとした時、向こうから誰かがやってくる姿が見える。小さな影と大きな影……ミサとロイだったが、少し距離があったので彼らはオーランドには気づいていないようだ。


「ミサ、俺は明日、騎士団に協力して最終討伐に参加することになったから、フラフラと勝手に外へ出るんじゃないぞ」


「ロイさんはずっと私の護衛ばかりしてるから、腕が鈍っていませんか?」


「俺はやればできる男だ。だから問題ない!」


「ふふ……大丈夫です。ケガをして帰ってきても、私がちゃんと治してあげますからね!」


「ああ、期待しているぞ」


 二人は楽しそうに笑い合っている。

 本来であれば主を呼び捨てにしたり軽口を叩くなど絶対に有り得ないことだが、二人は親しげでその姿はまるで友人のよう。

 ミサ(主)とそんな関係を築いているロイ(護衛騎士)が、オーランドにはとても羨ましく感じた。



 ミサが意識を失って倒れたとオーランドが知ったのは、それから二日後のこと。

 腕を失ったロイのために再生魔法を使用し、魔力を枯渇させたのだった。


 ロイをはじめ周囲の人間はミサがまだ幼いことを理由に再生魔法を使うことに反対したが、頑として聞き入れなかったようだ。

 今は護衛騎士のロイが付き添っており、面会謝絶の状態が続いているという。

 ミサが心配で堪らなかったがオーランドにできることなど何もなく、次の日、失意のうちに村を後にした。


 ミサが無事に意識を取り戻したと聞き、オーランドがホッと安堵の息を吐いたのはそれから数日後のことだった。





 リーランドとガーランドは、エリーナの快癒(かいゆ)をとても喜んだ。

 リーランドは礼をしなければと張り切り、エリーナやオーランドの意見を参考に、孤児院と治療院にベッドと寝具を贈ることが決まった。

 今は代理人を通じて、あちらとやり取りをしているようだった。


 それから数年後……

 護衛騎士となったオーランドが、その恩恵を受けることになるとは。

 感謝のあまり暴走したリーランドが、天蓋付きベッドと絹製の寝具を贈ろうとして一度断られていたことを知ることになろうとは。

 ……あの頃のオーランドは、想像もしていなかった。





 十歳で王都にある王立学園へ入学したオーランドは、勉学に勤しんでいた。

 常に学年トップの兄ガーランドのように、公爵家の人間として恥ずかしくない成績を修めなければならない。


 学園に通うようになると、急に周りの女子たちから声をかけられることが多くなる。

 兄(いわ)く、公爵家出身で頭も見目も良いオーランドは、結婚相手としてこれ以上ないのだとか。

 もうすでに何件か見合い話まで来ているようだが、オーランドにとっては聞いているだけで頭の痛い話だ。

 学園内で日々繰り広げられる女の争いには、正直辟易(へきえき)していた。

 笑顔の裏で足を引っ張り合い(ののし)りあっているが、自分の前では愛想のよい顔をして秋波を送ってくる彼女たち……そんな子たちの中から、いずれ将来の配偶者を選ばなければならないのだ。


 兄は公爵家の跡取りとして、在学中に家にとって最良の女性と婚約したが、次男であるオーランドに求められているのは他家への婿入りだ。

 同格、もしくは一つ格下くらいの跡取り娘を娶り、爵位を継ぐのが良しとされている。

 そこに自分の希望などは一切存在せず、ただ家のためだけに相手を選ぶのみ。


 貴族として生まれたからには義務を果たさなければならないことは、オーランド自身も理解している。それでも、そんなときにいつも思い浮かぶのは一人の少女だった。


 淡い水色の髪に、金色の瞳。


(あの子が、貴族だったら良かったのに……)





「誰か、気になる相手くらい居ないのか?」


 見合い話を断り続けているオーランドに、ある日、兄は言った。

 大方、母のエリーナが泣きついたのであろうことは、すぐに想像がつく。

 最高学年の十五歳となり来年に卒業を控えているにもかかわらず、オーランドにはいまだ婚約者がいなかった。


 兄に問われ、真っ先に頭に浮かんだのはやはり同じ人物。


「……兄上、『聖女』という肩書があれば、たとえ平民出身でも貴族との結婚は可能でしょうか?」


 オーランドより一つ年上のミサは、来年成人を迎える。

 成人すれば結婚もできるようになる……とつい疑問に思ったことを、何も考えず兄に尋ねてしまった。


「聖女様と結婚って……いま現在、我が国に聖女様は存在していないが?」


「た、たとえばの話です!」


 慌てて取り繕ったが、すでに遅かった。

 オーランドの何気ない質問は大いに兄の興味をひいたのだ。


「他国でもそうだが、聖女様が結婚をされる場合お相手は王族が多い。それは、聖女様のお力を次代へ引き継がせるためだ」


「強い魔力を持つ子に跡を継がせ、国を安定させるためですね」


「『聖女』という立場は、王族に並ぶほど尊いものだ。だから、元の身分はまったく問題にならない」


「!?」


 『聖女』であれば、身分差は問題ないと兄は言い切った。

 

(では、彼女が『聖女』に認定されれば私とも……)


「さて、最初の話に戻るぞ。これまでの話から推測すると、おまえの想い人は『平民出身だが、聖女に匹敵するくらいの魔力や光属性の持ち主』ってことで間違いないか?」


「…………」


 兄には、オーランドの浅い考えなど全てお見通しだった。

 昔から彼には何一つ隠し事はできなかったのだ。


「それで、その彼女とどこで知り合った?」


「……六年前、母上の命を救ってもらいました」


「あのときの治癒魔法の使い手か。彼女の評判は、この王都にまで届いているな……」


 顎に手を当て、彼は何か考えているようだった。

 兄からの追及はそれ以上はなく、話はここで終わった。




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