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廊下に出て早速左右の確認をする。どうやら廊下には俺以外誰もいないようだった。

コンデンサがいなくてホッとする。一人であちこちを見て回りたかったので好都合だ。

(さて、どっちから行くか……)

右に行こうか左に行こうか迷う。どちらも気が遠くなるほど長い廊下が伸びており、見た感じ左右で違いはなさそうだ。

腕を組みながら何気なく左を向けば、おもちゃの兵隊のような奴がゆっくりとこちらに向かって歩いて来るのが見えた。今まで見たことのないそいつに興味をそそられて近づく。

(なんだこいつ?)

ブリキの兵隊よりも細い手足をし、その割には大きな長靴を履いている。右手には実弾が出そうにもない一見プラスチック製に見えるアサルトライフルを持っていた。そんなそいつの周りにはふわふわとマイナスマークが書かれた小さな玉が浮かんでいた。

そいつは俺が近寄ったのにも関わらずのんびりと廊下を歩いていく。俺はそいつの後ろを追いかけた。

「おい」

様子を見て話しかけるとそいつが足を止め素早く振り向いた。そして俺の顔を見てきょとんとする。真っ直ぐに見つめられて俺は少し面食らった。

「ああ、悪い。特に用があったわけじゃないんだが……。あんた、一体何なんだ?」

そう尋ねるが言葉が通じていないのか首をさらにかしげるだけだ。もしかしたら口らしきものがないから喋れないのかもしれない。いや、耳らしきものもないからそもそも俺の言葉が聞こえていない可能性もある。

しばらくそいつと俺が見つめ合う時間が続いた。

(……何やってるんだ、俺は)

このまま見合っていても仕方ない。俺はそいつと意思疎通を取るのを諦め、歩き出そうとした。

それと同時に廊下に甲高い笛の音が響いた。高い音にびくりとして俺は顔を上げる。

(なんだ?)

何事かと警戒態勢をとったとき、目の前にいた兵隊がはっとしたように回れ右をし、走り出した。

「お、おい!」

いきなり動き出したそいつに面食らって俺が手を伸ばしたとき、何かが背中に勢いよくぶつかってきた。石のように硬いそれに思わず顔を歪める。

「いって!」

よくわからないやら痛いやらで俺はイラッとして振り返る。すると、そこにさっき俺が話しかけた奴と全く同じ見た目をした兵隊が頭を痛そうに押さえながら立っていた。

「あれ?お前、さっき向こうに走っていったんじゃ……」

そう言うと、そいつが頭をさすりながらも俺の横を通ってよたよたと走っていってしまった。

(なんなんだ?)

怪訝に思いながら顔を上げてぎょっとした。さっき俺にぶつかってきた兵隊と全く同じ見た目の兵隊たちがこっちに向かって大勢走ってきたためである。

「うわ!」

思わずぎょっとして立ちすくむ。兵隊たちは俺に構わず横を次々と通り過ぎていった。しかし、全速力で走りすぎたのか、俺を避けきれずぶつかっていく奴もいて、そのたびにそいつらは痛そうにぶつかったところを擦っていた。

しばらくたって兵隊たちの大移動が終わり、廊下は再び静かになった。俺はあっけにとられてそのままの状態で廊下の真ん中で立ちすくんでいた。

(一体何だったんだ……)

そうぼうっとして考えて、遠くから一人の兵隊がトコトコ走ってくるのが見えた。そいつは皆に遅れてしまったのか焦ったように走っていた。

(こいつらはどこに向かってるんだ?)

俺には見向きもせず通り過ぎていくそいつに、俺はついていってみることにした。

他の兵隊に比べてわずかに足の遅いそいつの後を追っていると、そいつが開け放たれた扉から外に出ていった。どうやらそこは中庭のようで青々とした芝生が広がっていた。

よく手入れのされた花壇の横を兵隊が走っていく。そいつの後ろをついていき、角を曲がって目に入ってきた光景に俺は目を丸くした。

何百もの兵隊たちがひとところに集まっていた。まるで修学旅行に来た生徒のように列を作り、きれいに並んでいる。その兵隊たちの前に、青年が立っていた。

彼は兵隊と同じような格好をしており、頭の帽子からは白い髪が覗いていた。他の兵隊たちと違って両手に白い手袋をはめ、口に笛を咥えている。

俺が追いかけてきた遅刻気味の兵隊が列に入ったのを見届けて、青年が笛を吹いた。ぴしっと兵隊たちが姿勢を整える。

そんな彼らを冷めた瞳で見ながら青年が再び笛を鳴らした。すると、今度は一斉に兵隊たちが右を向く。その動作はナノ秒の遅れもなくきっちりと揃っている。

もう一度笛を吹くと一番前の列の兵隊が銃を構えた。青年がそれを見たあともう一度笛を吹くと、同時に発砲した。

俺はその様子を彼らから距離を置いて黙って眺めていた。

(すげえな、兵隊の訓練ってこんな感じなのか?)

そう思いながら兵隊たちが発砲する様子を眺めていると、笛を吹いていた青年がこちらをちらりと見た。そしてじとっとした目で睨んでくる。

「……あなた、いつまでそこに突っ立ってるつもりなんです?」

いきなり話しかけられぎょっとする。

「え?あ、いや……。こんな光景今まで見たことがなかったから、つい眺めちまったんだ」

そう言うとそいつが呆れたように俺を見た。


挿絵(By みてみん)


「電子たちの訓練の邪魔になるので、出ていってくれません?僕たちはあなたと違って暇じゃないんで」

そう棘のある口調でそいつが言う。

「電子?」

そう聞き返すと面倒臭そうにそいつが後ろにいる兵隊たちを指差した。

「こいつらのことです。見てわかりません?」

(分かるわけないだろ)と心の中で言い返す。しかし、実際口に出したら面倒なことになると分かっていたので黙っておくことにした。

そんな俺を見ながらそいつが少し苛立ったように腰に手をおいた。

「あなた、その耳はお飾りか何かですか?」

「いや……」と俺は首を振る。

「そうでないならさっき僕が言ったことが理解出来たはずですよね?早くここから出ていってください」

追い払うように手を振りながら素っ気なく言われ、俺は特に言い返すこともできず、中庭をあとにした。


さっきの様子だと中庭にはしばらく行けそうにないので、城の中の探索を続けることにした。しばらくの間廊下を歩くとやっと突き当たりに来た。そこには上に行く階段と下に行く階段の両方があり、下行きの階段の方には『この先研究所』と書かれていた。

(へえ、研究所……)

理科の国でも何か研究することがあるのか、と俺は疑問に思う。ぜひ見学してみたいと足を一歩踏み出した矢先に看板に『立ち入り禁止』と大きく書かれているのが目に入った。

「……」

黙ってあたりを見回す。今なら誰もいない。

(こっそり入ればばれないだろ)

そう悪い笑みを浮かべて階段を降りようとしたものの、階下は電気がついていないようで真っ暗だ。この先がどうなっているのか全く見えない。流石にこのまま進むのは危険すぎる。

(どこかで灯りになるものを探してくるか)

そう決めて、まずは上の階に行ってみることにした。

(C)2021―シュレディンガーのうさぎ

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