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05話 A級少女

 掲示板の前に立つと、壁一面に所狭しと依頼書が貼り付けられている。

 リュウとリーナは大雑把にそれらを眺めた。


「なるほどな、依頼にもランク分けがされていて大体の難易度が決まっているんだな」


 依頼書には、依頼主と依頼内容、それから依頼の難しさをあらわすランクが割り振られている。

 Eランクは、街内部での人探しや清掃といった簡単な雑務。

 Dランクは、街からそう遠くなく、比較的危険の少ない地帯への素材採集。

 C〜Aランクは、魔獣の討伐や魔獣に襲われる危険のある依頼。

 おおよそのランク分けはこんな感じだった。

 Sランクの依頼書は、今はないようでどんな依頼なのかはわからない。

 一通り眺め終えたところで、リーナがリュウの服をちょこんと引っ張った。


「マスター、どの依頼にしますか?」


「そうだな……これにしようと思ってる」


 言いながらリュウは一枚の依頼書を指差した。

 そこには次のように書かれている。


 依頼名:セイラム村の神隠し調査

 依頼難度:B

 依頼内容:王都南西に位置するセイラム村で、そこを訪れた旅人が神隠しにあうという噂がある。依頼は消えた旅人たちの安否の調査、及び原因の究明。


 リュウがそれを読み上げると、リーナがサラッとした銀髪を横に傾げた。


「マスター、どうしてこの依頼を?」


「まぁ、ちょっとあってな。……セイラム村は、俺の出身の村の近くでもあるんだ。だから、少し気になる」


 言うべきかどうか迷ったが、リュウは正直に答えることにした。

 セイラム村は、リュウの出身の村と王都をつなぐちょうど間に位置する村だ。同郷の者が王都に向かう際、セイラム村を経由する可能性は高い。

 だから、リュウはその依頼を選んだったのだった。

 リュウは不安そうに見つめるリーナに向かって確認する。


「嫌か?」


 リーナはそんな短いリュウの問いに、勢いよく首を横に振った。


「わたしはマスターのものです。マスターが行くなら、どこでもついていきます!」


 小気味良い返事にリュウは笑った。

 意見もまとまったところで、その依頼書に手を伸ばそうとしたとき。

 突然、隅のテーブルからガタッという音が聞こえ、リュウたちのもとへと走る人物がいた。


「ちょっっっっと待ったぁぁぁあーーー!!!」


 ギルド本部全体にその甲高い声は響き渡り、何事かとリュウはそちらを振り向いた。

 その先には、流れる水のような長い青髪を揺らしながら、勢いよく近づいてくる一人の少女がいた。

 少女はそのままリュウたちの横まで迫ると、リュウが取ろうとしていた依頼書をひったくる。

 おそらくリュウたちと同い年ぐらいであるだろう少女は、整った顔立ちの美少女ながらもその快活さが一つ一つの動きにあらわれていた。

 少女は片手で依頼書をリュウたちに見せびらかしながら言い放つ。


「この依頼はアタシがもらうわ」


 挑発的な笑みを見せる少女に、リーナはむっとした表情を浮かべる。

 リュウは努めて冷静に少女に尋ねた。


「ギルドってのは、依頼を横取りしてもいいのか?」


「いいえ、依頼を受けるのは早い者勝ちよ。けどアンタたち、さっき受付で見てたけど、ギルドに申請したばっかでしょ? 駆け出しのギルドが、Bランクの依頼なんて受けられるわけないじゃない」


 自信満々に言い放つ少女。

 リュウは騒動を見守っている受付嬢の方に「そうなのか?」と視線で尋ねると、受付嬢は首を忙しなく縦に振っていた。

 どうやら少女の言っていることは正しいらしい。


「それは知らなかった。ところでお前は誰だ?」


 リュウが肩を落としながら自分たちの依頼書を奪い取った主へと尋ねると、少女は待ってましたと言わんばかりに胸を張った。


「ふふん、聞いて驚きなさいっ! アタシは無数に存在するギルドの中でも三つしかないSランクギルド『星を砕く獅子(レオストレア)』の一員、ミュッセ・パステルよっ!」


「Sランクギルド……」


「驚いて声も出ないようね」


「ってどれぐらいすごいんだ?」


「はぁ!?」


 自慢げに説明する姿から一変、リュウのことを信じられないといった様子で睨むミュッセ。

 一々動作が大きいため、その流れるような髪や胸元が絶えず揺れ動いている。

 ミュッセは馬鹿にしたように一つ息をつくと、「これだから新入りは」と手を挙げ、説明を始めた。


「いい? Sランクっていうのは、特別な条件をクリアしないと与えられないのよ。その特別な条件っていうのは……、魔人の討伐よッ!」


 言葉の最後をたっぷり溜めて、ミュッセは高らかに宣言する。

 リュウはその言葉を聞いて感心した。

 魔人とは、魔族の一種である。

 魔族といえば、魔獣と魔人に分類されるが、魔獣は知性が低く本能に基づいて行動するのに対して、魔人は人と同等以上の知性を有し、そのマナの量も桁違いである。

 魔人は数も少ないため、そもそも遭遇すること自体稀で、しかも一人一人が厄介な能力を持っている。

 リュウも何度か戦い、討伐したことはあるが、どれもこれも一筋縄ではいかない相手ばかりだった。


「なるほど、それは大したものだ」


「へぇ、意外に素直じゃない。アタシのすごさがわかったのならそれでいいのよ」


「一対一で魔人と戦ったのか?」


「アンタばかぁ? 魔人と一対一で戦えるわけないじゃない。そんなことできるのなんて、個人でSランクの二人ぐらいだわ」


 ミュッセの説明を聞いて、リュウはランクの力関係をおおむね理解した。

 つまり、個人で魔人と戦って勝利を収めることができれば、ギルドにおける個人ランクはSランクとなるのだ。

 魔人と一対一で勝てるのは、騎士団の隊長の中でもリュウを含めて半分といったところだ。

 ということは、隊長クラスの力を持った人間がギルドに少なくとも二人はいることになる。

 ギルドも侮ったものではない、とリュウは内心思った。

 ミュッセはリュウの驚いた様子を見て満足したのか、依頼書をひらひらとたなびかせ、立ち去ろうとする。


「ちょっと待った。話が戻るが、その依頼何とかして俺たちが受けることはできないのか?」


 その後ろ姿にリュウが声をかけると、ミュッセは半身だけ振り返った。


「緊急性の高い依頼のときとか、ギルドの実力が認められているときは、例外的に上のランクの依頼を受けることができる場合もあるわ。けど、今日申請したばっかのアンタたちじゃ無理ね。……それこそ、このアタシと勝負して勝ったりでもしなければ、ね」


 そんなことは無理だけど、と付け加えてミュッセは悪戯っぽく笑う。

 だが、リュウはその言葉を聞いてぼそりとつぶやいた。


「お前に勝てばいいんだな」


「……何ですって?」


 耳ざとく漏らした言葉を拾うミュッセ。

 それが聞き間違いでないと教えるように、リュウは不適に笑いながらもう一度同じ言葉を繰り返す。


「お前に勝ったら、その依頼、俺たちが受けてもいいんだよな」


 リュウの言葉に、はじめてミュッセは不機嫌そうな顔を見せる。


「アンタは知らないだろうけど、アタシは個人でもAランクなのよ。大型の魔獣だって一人で討伐したこともある。Eランクの、ましてや加護を持たないアンタなんかじゃアタシに触れることもできないわ」


「ほう、面白いことを言う」


「……は? 何が――」


 ミュッセがそう問い返そうとしたとき、さっきまで彼女の目の前で会話していたはずのリュウの姿が消えていた。

 慌てて周囲を見渡すミュッセ。

 その耳元で囁くようにリュウはつぶやいた。


「どこを見ている?」


 とん、とミュッセの肩にリュウの手が触れる。

 その瞬間、ようやく自分のすぐ側にリュウが近づいていたことに気づいたミュッセは慌てて肩の手を振り解いた。


「なっ」


 まだ何が起こったのかわからない、といった様子のミュッセにリュウは口角を上げて言う。


「どうした? 触れることもできないんじゃなかったのか」


「アンタ――ッ」


 ミュッセは顔を赤くしたが、大きく息を吸い込んで心を落ち着かせる。


「……良いわ。そこまで言うなら勝負してあげようじゃない。途中で泣いて謝っても許さないんだからねっ!」

 

 そうして、リュウとミュッセの勝負が決まった。

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