04話 ギルド申請
ギルド本部にやってきたリュウとリーナは真っ先に受付に足を運んでいた。
カウンターを挟んで、大人びた受付嬢が慣れた様子で笑顔を浮かべている。
「今日はどういったご用件で」
「新しくギルドをつくりたい」
「ギルドの説明をお聞きになられますか?」
受付嬢の提案にリュウは頷いた。リュウもリーナもギルドに入ったことはないので、念のため詳細を聞いておくべきだと判断した。
リュウが頷いたのを見て、受付嬢は笑顔を崩さずにこほんと一つ咳払いをした。
「まず、ギルドとはこのギルド本部に所属する組織のことを言います。ギルドの主な仕事は、市民から寄せられた依頼をこなしていくことになります。達成すれば、報酬が得られるというわけですね」
「達成できなかったらどうなる?」
「それにはまずギルドのランクについてお話ししなければいけませんね。ギルドにはその功績に応じたランクシステムがあり、EランクからSランクまでがございます。駆け出しの方はEランクからスタートし、依頼を達成するごとにランクがあがっていき、逆に依頼に失敗しますとランクが下がってしまいます。ちなみにランクはギルドに所属する個人にも存在します」
なるほど、とリュウは相槌を打つ。リーナは頭にはてなを浮かべているようだった。
前半のことは知っていたリュウだが、ギルドにランクがあることは知らなかった。
説明を聞き終えたリュウは、満足して受付嬢に言う。
「大体わかった。なら申請を頼む」
「ではこちらに記入を」
受付嬢は一枚の羊皮紙を渡してきた。ギルド設立時に必要な情報を書けということらしい。
ギルドの代表者名。メンバーの名前。連絡先となる場所。などなど。
リュウはそれらを記入していくが、ある部分で筆が止まった。
そこには次の情報が求められている。
――『加護』
リュウはその文字を見て嘆息した。
加護とは、神から個々人に与えられる祝福であり、福音である。
その種類は実に多岐にわたるが、剣の加護であれば、剣に関する能力が向上し。魔法の加護であれば、魔法に関する能力が向上する。
これらは先天的、あるいは後天的に獲得される個人の資質と関係していることが多く、ほとんどの人間はこの加護を利用して、生きていくことになる。
通常、十歳になる頃にはすべての人が自分の加護を自覚する。
だが、リュウには特別な事情があり、それを記入する手が止まってしまったのである。
怪訝そうにその様子を見る受付嬢に対して、リュウは言った。
「加護は絶対に書かないといけないのか?」
「はい。稀にですが、すべてのギルドに対して参加を強制する依頼がございます。その際、ギルドのランクやメンバーの数と共に加護を見て、適切に割り振る必要があるのです。何か不都合でも?」
淡々と説明する受付嬢に対して、「不都合というか何というか……」とリュウは口籠もったが、言わないことには話が進まないので、リュウは諦めたように口を開いた。
「俺は加護を持ってない」
リュウが加護について言い淀んでいたのは、これが原因だった。
歴史上、加護を与えられなかったとされる人間はいない。だが、リュウは世界でただ一人、加護を与えられていない人間だったのだ。
当然、受付嬢はそんなことを信じるはずもなく。
「またまた。加護を与えられていない人間なんているわけないじゃないですか」
「いや、本当に持ってないんだが」
受付嬢はどうやらリュウが冗談でも言っていると思っているようだった。
そんなやりとりが続き受付嬢は、はぁとため息をついた。
「たまにいるんですよね。加護を他人に言いたくなくて嘘をつく人が。……この手は使いたくありませんでしたが、しかたがありません。私の加護は『真偽の加護』です。私の質問にあなたの嘘は無意味です。さぁ、もう一度だけ聞きますよ。あなたの加護は何ですか?」
「何度でもいうが、俺は加護を持ってないぞ」
「ほらやっぱりウソ……って、えぇ!? 嘘を、言ってない……!?」
受付嬢はテーブルに手をつき、カウンターから飛び出してくる。どうやら『真偽の加護』とやらは自分の行った質問に対する答えが、真か偽かを判定する加護のようだ。
何度も瞬きをして、何かを呻くようにもらす受付嬢。
それからしばらくして、ようやく納得したように椅子に背をついた。
そんなタイミングを見計らって、リュウは加護の欄に「なし」とだけ書いて、羊皮紙と申請に必要な代金を受付嬢に手渡した。
「これでいいな」
「……はい、確かに受け付けいたしました」
まだ茫然自失としている受付嬢に背中を向けると、リュウは自分に注がれる視線を多数感じた。
見渡せば本部の中にいる別のギルドメンバーとおぼしき人物たちが、リュウの方を見てつぶやいている。
「加護がないってマジかよ……そんな人間いるのか?」
「受付のねーちゃんの間違いなんじゃねぇの」
「加護もないやつがギルドでやってけるのか?」
大体はリュウの加護についての疑惑の視線だ。
それに怯えたのかリーナはリュウに隠れるようにして、ぎゅっと服を掴む。
そんなリーナを安心させるため、リュウはその頭に手をおいた。
「ま、気にするな。それよりも依頼を受けに行こう」
そういうと、リュウははじめての依頼を受けるべく、依頼書が貼ってある掲示板の方へと歩みを進めた。