ここは死地
097
僕とキングは魔獣の大群に飛び込み、かきわけ、北門を目指した。
ドラゴンに破壊された北門はすでに突破され、街のほうまで魔獣が侵入してきている。
「おい、キング、いくぞ、いくぞ」
僕たちの標的はアーガスなのだから、その他の雑魚にはかまっていられない。
なのに、キングは目先の魔獣を斬らないと気が済まないようだ。
「ちょっと待て、ちょっと待て。もう少しでわかりそうなんだ」
どうやらキングは僕の言葉だけで剣技を習得しようとしているようで、かなりウルフズベインが形になってきている。
いちいち剣を鞘にしまい、柄から手を放して、魔獣が接近したところで抜き打ちにして3連続で斬っていく。
まだ剣を抜くスピードが乗らなかったり、3連続のはずが単発だったり2連続で止まってしまったり、そもそも不発になることもあるけど、だんだんとコツをつかんでいるようだ。
「すごいな……」
本当にスゴいと思う。
僕なんか最初の剣技をなんとか形にするのに何年かかったか。
「この世界でもアーツやソードスキルが使えるようになるという事実を知ったからな。できるかできないかわからないことを諦めずに研究するほうがずっとすごい」
「まあ、最初に成功するまでは、不可能なことをやっていて時間を浪費しているだけじゃないかと、心が折れそうになる瞬間が一度もなかったといえば嘘になるな」
「オレは最初から無理だと思い込んで、少し試してはみたが、すぐに諦めた……いや、試したんじゃないな、アレは。ただ無理だということを確認したようなもんだが、最初からできない前提でやっているんだからできるわけがない」
そう言いながらキングは次の魔獣に斬りかかる。
左に斬撃を放ったと思ったら、すかさず右、さらに左と10連続の剣技で魔獣の死体を量産していく。
これは僕も知っている『神代戦記 ガイゼアン』のソードスキルである「ファランクスバレッジ」だ――少々未完成なところはあるが。
しかし、こんな短時間によく再現できたと感心した。
そうやって魔獣を殲滅しながら前に進んでいくが、進めば進むほど魔獣の密度が高まっていくから、北門の寸前までが精一杯。
だんだんと進むどころか押し返されないように必死になっていた。
そこにメレデクヘーギ侯爵が手練れの騎士たちを連れてやってくる。
「ここはすでに最前線ではない。出過ぎている、すぐにさがれ!」
「侯爵、このスタンピードの首謀者がわかりました。やはり人為的なものだったのです。そいつを倒さないと、いつまでたっても終わりませんよ」
「この先にいるのか?」
「はい。ここを突破する必要があります」
「では、焼き払ってしまいましょう」
水溺姫が姿を現せたかと思ったら、いきなり巨大な炎弾を連射した。
直径10メートルはあろうかという炎弾を10連射もしたのだ。
その弾道上にいた魔獣は一瞬にして絶命する。
僕とキングは黒く煤けた炭の道を走る。
知能は低くても、本能が鋭い魔獣たちは危険を察知して遠ざかろうとするから、なおさら障害がなくなり先に進めた。
しかし、アーガスのところに辿り着くより早く、ドラゴンの壁に阻まれる。
180頭のドラゴンが進撃してきて、おそらく30頭から40頭くらいは斃したか、怪我で戦線離脱したようだが、残りはまだまだいた。
100頭近くが城壁を壊し、街で暴れまわって騎士や冒険者と戦っていたが、アーガスは50頭ほどを自分のまわりに置いていたのだ。
絶対に勝てない。
前へ広がっているのは確実に死への道だが、撤退したところで一時的な延命にしかならないだろう。
すでに北門が突破されたいま、スタンピードに耐えるだけの防衛力はなくなっているのだから。
「おい、キング。ドラゴンの食べ放題だぞ。50頭を一気にやっつける必殺技はないのか?」
「そんな技、もしあったら辞典に載っているはずだ。つまりおまえの脳内にないのなら、そんな技は実在しない」
「しかたない……1頭ずつ潰していくか」
「ここで残念のお知らせだが、オレの剣はアダマントではないからドラゴンを斬るのは難しい」
「そういえばキングは冒険者か? 騎士って感じではないけど」
「銀板まで上げたぞ。クリートは金板くらいか?」
銀の板にユユと刻まれた冒険者証を首から外して見せてくれた。
イヤミか、コイツ?
「木札だよ!」
「剣技が使えて、しかもアダマントの剣を持ってて、それで木札はないだろう?」
「僕には王子という立場があって、自由に冒険者ライフを満喫というわけにはいかないんだよ!」
「ああ、なるほど。木札の癖にアダマントの剣なんて高級品を持っているのは王子という立場だからか……一般的に冒険者だと銀札だってアダマントは無理なんだ。金板でさえ、なかなか。冒険者のトップクラスが何度も死にかけるハードな仕事をいくつかやるか、すごい幸運に恵まれるか、とても厚い財布を持ったパトロンに気に入られるとか、なんかないと手に入らないんだよ!」
「違う! アダマントの剣は王子の立場で手に入れたわけじゃない!」
腹を立てて言い返したが、よくよく考えてみればメレデクヘーギ侯爵からいただいたものだから、王子という立場も少しは関係している?
最低でも高位の貴族でないとフェヘールの婚約者に選ばれることはないんだし。
そういう怯んだ態度をキングに見透かされて、さらに攻撃された。
「やっぱり王子だから持っているんだな? 王城の武器庫の奥にしまい込んであった奴をかっぱらってきたのか? まさか宝物庫で眠っていた歴史的な逸品じゃないだろうな?」
「ふざけてるとドラゴンに食われるぞ!」
山の中腹あたりの森にアーガスはいた。
ちょっと開けた場所に座り込んでいて、そこだけを切り取ると無防備もいいところだ。
しかし、その周辺には50頭のドラゴンがいて、全員が僕たちを見ている。
冷たい目――美味しそうでもなければ、量が多いわけでもないけど、簡単に捕食できそうだから食べておこうか。
そんな目だ。
頭が冷えて、客観的に状況が読めるようになった。
いくらキングが一緒だからといって、この数のドラゴンを相手にして勝てるはずがない――勝つとか、負けるというレベルじゃないな、一方的に虐殺されて終了。
やはり、いったん撤退して戦力を整えようか、と思ったが、そもそもどこに戦力がある?
すでに北門は突破され、街中に魔獣が押し寄せているのだ。
そこでもドラゴンが100頭くらい暴れまわっているわけで、さすがのメレデクヘーギ侯爵家にしたところで予備兵力なんてないだろう。
「おい、逃げるぞ」
キングも状況を冷静に判断した結果、最適解を出す。
しかし、もうそんなことを言っている場合じゃないんだよ。
「どこに? 逃げたかったらスタンピードが起きていると警報が出た時点で全力で逃げておけよ!」
「そりゃそうだ……もう逃げる場所はないんだな」
「僕たちに選べるのはどうやって死ぬかだけだ。キングが逃げるなら止めないよ、僕は戦う」
すでに逃げるタイミングを逸しているのに、無様に逃亡して何歩も進まないうちに背後から攻撃されて雑魚キャラみたいに死ぬのは御免だ。
まあ、唯一の救いとしてはアペフチに乗っているフェヘールはいつでも安全に脱出できることだな。
あの巨大な赤いドラゴンの背中なら家族と……あとはジョンやチュクくらいは連れていけるだろう。
そして、王家や他の貴族家から騎士を借りて軍を編成し、この地をふたたび取り返してくれるはず。
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