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剣技ではなんともならないこともある

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 キングが変だ。


 変なことを言っている。


 僕は大袈裟に顔をしかめ、さらに視線を逸らす。


「うわーっ……色仕掛けするキングなんて見たくなかったな」


「うるさい! オレは必死なんだ」


「そういえば僕たちの漫画あったよな?」


「………………ずっと忘れてたのに! 忘れたはずたっだのに! この世界にきて一度も思い出さなかったのに!」


「すまん」


 素直に謝る。


 僕たちは有名タイトルのゲームをやることが多かったから、その2次創作がネットの海にはいっぱい転がっていたんだ。


 NPCの美少女キャラクターのエロい作品なんかは大量にあったし、そのあたりで終わっててくれればよかったと思う。


 ゲーム以外でも、漫画やアニメなど、人気作品の2次創作をする人は多いし、そういう作品の中にいわゆる『薄い本』も必ずある。


 ところがVRMMORPGで有名なプレイヤーの2次創作が流行ったことがあって、僕もキングも何人かの手によって勝手に漫画に登場させられたわけだ。


 で、そういう作者に腐ったお姉さんもいて――つまり、まあ、うっかりエゴサして「ギャー!」ってなることが何度もあったわけ。


「そういえばキングってたいてい受けとして描かれていたよな」


「やめろー!」


「抱くより、抱かれたい派なのね、長い付き合いだけど知らなかったよ。まあ、どちらかというと知りたくなかったけど」


「口に剣を突っ込んで二度としゃべれないようにしてやろうか?」


「できるかな? 剣技の使えないキングなんか怖くないが?」


 ごめんなさい、強がりです――と謝りたくなったけど、ポーカーフェイスで。


 キングは怖いんだよな、こっちが剣技が使えて、むこうが通常技だけだとしても、だからといって僕が確実に勝てるわけではない。


 それくらいキングは強いんだよ、本当に。


 いくつものゲームで敵になって戦ったり、武闘会みたいなイベントがあったり、稽古とか、練習とか、いままで何回もやりあってるからね。


 内心ビビってたけど、キングのほうはもっと一杯一杯になっていたらしく、僕の演技を見破ってかかってるどころか、半分涙目になっていた。


「オレを泣かせる気か? もう好きなようにしろよ、ほらほら……」


 キングが上着のボタンを外しながら迫ってくる。


 ものすごい迫力でズンズンやってくるのは怖いくらいだけど、もっともっと危険な殺気が背中に浴びせられた。


「クリート、とっても仲のいいお友達みたいね。よかったら、わたくしにも紹介してもらえないかしら?」


 フェヘールだった。


 白樺救護団や負傷者たちを安全地帯まで逃がしたあと、どうやら僕のことを心配して戻ってきたようだ。


 見たところ怒っている様子ではない。


 どちらかというと笑っているんだけど、その笑顔が怖かった。


 別に浮気とかしたわけではないし、なにしろ相手はキングなのだから、どんな色仕掛けでかかってきたとしてもピクリとも反応しないんだけど――それを説明するのが難しい。


 これまで何度か打ち明けようと考えたことはあるけど、この世界の人か異世界転生というものを理解して納得するかが問題。


 いろいろ宗教はあっても、どれもが死んだら天国にいく的なもので、どうやら輪廻転生という概念はないか、あっても僕のアンテナに引っかからなかったマイナー宗教にわずかな可能性が残るだけ。


 さらにゾンビやスケルトンといったアンデッド系の魔獣がいるから、死者が蘇ることは不浄の禁忌に近い。


 メレデクヘーギ侯爵家の魔術師団長だったランゲにしてもリッチになって、他の魔獣の仲間になっているし。


 そうなると僕に否定的な気持ちを抱かないように、上手に説明するのは無理――少なくとも僕の言語能力では絶対にできない。


 つまり、まず異世界転生について説明せず、キングと僕の関係をまったくやましくないとフェヘールにわからせないといけないのだ。


 こんな無理ゲーありえない!


 いや、心が折れて自分で自分の負けを認めない限り、それは負けなんかじゃないんだ。


 僕はまだ戦える。


 そうだろう?


 ぜんぜんクリアーできない鬼畜な難解クエストをいくつもやってきた僕だ、こんなことで挫けてたまるか!


 絶対に不可能そうに見えてもなにか突破口がある――あったらいいなぁ。


「そういえば剣狂い王子は聖女様と婚約したという噂を聞いたぞ。ということは、このかわいい女性が聖女様なんだな? そうか、そうか。オレの変な発言はすべて取り消すし、そちらも忘れてくれると助かる。別に聖女様の婚約者に興味はないし、剣の弟子にしてくれればなんでもするという意味でしかないから」


 それより聖女様も一緒にオレに剣を教えるようクリートを説得してくれよ、とキングは臆面もなくフェヘールに頼み込む。


 フェヘールは困惑した顔を僕に向ける。


 昔からキングのことを少し尊敬する気持ちがあったけど、今日のキングは本当にスゴいな。


 僕がどうやって説明しようか迷い、結局これは説明しようがないと思考停止していたら、ただ剣技を覚えたいという、それだけで強引に一点突破しやがった。


「本当なの、クリート?」


「僕が使う剣の技があるだろう? あれをどうしても覚えたいらしい」


「ああ……なんか人間を捨てちゃったのかと思うような変な動きの?」


「そうそう」


 相槌を打ちながらも地味にショックを受けている。


 フェヘールは魔法士で剣のことは詳しくないけど、僕の剣技をそんなふうに見ていたのか……人間の動きじゃないのは同意だけど、変な動きってどうなんだ?


 しかし、そこのところを考えている暇はなかった。



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