キングの願いは?
093
キングは咀嚼するように僕から聞いた言葉をゆっくりと呟いた。
「この世界ではクリート・アルフォルドで、冒険者としてはディク。前の世界では佐藤なのか鈴木なのか――そういえば本名を聞いたことなかったな。まあ、なんか日本人の名前で、ゲームの中では冒険者の剣技辞典。かわらない奴だな。ちなみにオレのほうはキングでも、ユユでもどっちでもいい。どちらも聞き慣れた自分の名前だ」
「キングだって異世界転生してもキングのままじゃないか……顔はかわいくなったけど」
「キャラクリなしで、いきなりスタートだからしかたない。顔どころか、すべてについて選ぶ余地が1ミリもないんだ」
「無精髭のおっさんキャラじゃないキングなんて剣術名人あたりが見たら大笑いするだろうな」
「ディク……じゃなくてクリートか。おまえだって結構な美少年じゃないか。しかも金髪碧眼で、本当の王子様。大剣マスター、長剣マスター、短剣マスターのマスタートリオだって大笑いだ」
「おいおい、キング。双剣マスターを忘れるなよ。メンヘラで面倒くさい奴だっただろ?」
「マスターを名乗れるほど双剣が上手いわけじゃないんだけどな。あれは自称・双剣マスター(笑)だろう。マスタートリオに入れるのもなぁ……」
「自分がくわわることでマスタートリオがマスター四天王に進化するのだ、と双剣マスターが言ってたけどな、知らない?」
「お笑いカルテットだぞ、オレの顔より大爆笑だ」
「で、そういう前世の縁で僕のほうにつかないか? アーガスはいくら出すんだ?」
「金じゃないよ。天才魔法士の魔法が報酬だ。使ってもらいたい魔法があるんだ」
「そういうことなら僕のほうにも天才魔法士の心当たりがあるんだが。フェヘールは聖女様と崇められている治癒魔法の遣い手。その母親は水溺姫という2つ名の凄腕冒険者だったし、王都に戻ればアルフォルド王国でトップクラスの人材が揃う王家の魔法士団に相談できる」
で、どんな魔法なんだ? とキングに尋ねる。
僕のコネでは不可能な魔法だったら諦めるしかない――騙したとか、変な揉めかたをしたら、本当に殺し合いしか選択肢がなくなってしまうし、僕としてはそれは避けたい。
キングは剣にまっすぐな男だ。
カリスマ性も人望もある癖に、自分が剣を上手に振りまわせるようになれれば充分に満足し、それ以上の望みはないという男だから、ギルドではマスターやサブマスはもちろん、幹部クラスにもなかなかつきたがらなかった。
ギルドを大きくしようとか、有名にしようとか、そんな気もなく、ただ剣技。
アーガスに世界征服に誘われたのだって、どうせ暇だし、強い奴と戦えるかな? という程度の理由だろう。
前世のゲーム内でさえギルド内の地位を上げたり、大きくしたり、知名度を上げたりするような野心がまったくなかったプレイヤーなのだから異世界にきたところで、その本質が変わるわけない。
どうせ大した理由じゃないんだろう。
ところがキングはとても口が固かった。
「うむ………………あまり言いたくないな。それこそ笑われる」
「いや、べつに笑ったりはしないが」
「ディクは笑うな、絶対に笑う。賭けてもいいが大爆笑だ。だから言わない」
「なんだよ、それ。賭けてもいいが、キングの真面目な悩みなら笑わないよ」
「いや、おまえは笑う」
どんだけキングの中で僕の信用がないんだ!
こうなったら、これしかない。
僕は剣先をキングに向ける。
「わかった、キング。賭けというのなら、これでやろう」
「結局、オレらが揉めたら、これで決めるわな」
キングも剣を構える。
「キングの代名詞といえばウルフズベインだったよな。この世界でも再現できたのか?」
元は『ワールドサーチ・オンライン』というVRMMORPGにあった日本刀の居合いみたいに一瞬で抜き打ちするソードスキルなんだけど、大剣みたいなものでも早抜きできるようになる。
もちろん、ただ剣を高速で抜くだけでなく、左から右に斬りつけ、その右に流れた剣を返して左下に向かって斬り、さらに跳ね上げて右上に斬るという3連続技だったが、これをキングは別のゲームでもできる範囲で再現して身につけていた得意技なのだが――なんだか顔が曇っていく。
「できるわけないだろう、異世界で、魔法があって、モンスターもいるといっても、やっぱりリアルな世界だ。ゲームやアニメみたいなフィクションの技が再現できるわけない」
「へー、そうなんだ。だったら死なないように避けろよ? ストリーム・ストライク!」
助走なしで一気に間合いを詰めてキングに突き技を出す。
僕のよく使う得意技であり、もともとは前世でさんざん遊んだ『マンスタニア・クロニクル』というVRMMORPGにあるアーツと呼ばれる剣の技だ。
僕の剣技に目を見開いて硬直していたキングだが、さすがに突かれる寸前には我を取り戻して素早く半身にして剣先から逃れた。
さっき剣を合わせたとき、フィジカルのみの通常技しか出してこなかったので、アーツとかソードスキルといった僕がまとめて剣技と定義しているものを習得してないと感じたのだ。
もしキングが剣技を使えるのなら、絶対に使う。
剣については出し惜しみしない男なのだから。
そのキングは呆然とした顔はそのままで、ポカンと口を開けて僕を見ている。
「おまえ……」
「僕の勝ちでいいかな?」
「……おまえの勝ちというか……オレの負けだ」
「じゃあ、僕に味方する、と?」
「負けたからには、そうなるんだろうなぁ……」
やっぱり呆然としたままキングが呟くと、ドラゴンの背から苦情が出る。
「おい、裏切るのかよ。キングの望みだろう? 叶わなくなるぞ」
「しかし、剣のアーツのほうが強いからな。クリート、アーツの使いかたをオレに教えろ。金なら払う」
「まあ、旧友のキングの頼みだ。教えてやらなくもないかな?」
ちょっとじらしてやる。
するとキングは面白いように食いついてきた。
「教えろ、教えろ。いくら払えばいい?」
「金はいらない。その首でいいよ」
アーガスの首を指す。
「どっちも首で支払いか。うーん……やっぱりアーツは魅力なのだが、受けた仕事を放り出すのも後味が悪いか?」
「僕は『マンスタニア・クロニクル』のアーツしか使えないわけじゃないんだぜ?」
「他にもできるのか?」
「これでも元は剣技辞典だ。いろいろ知っているし、なんとか再現できないか試行錯誤したよ。ちなみに僕はゲームやアニメに出てくる剣の技、つまりアーツとかスキルとか呼ばれているものを全部まとめて剣技と呼んでいる」
「剣技……まあ、そう呼ぶしかないだろうな。剣技……なんて魅惑だ。性転換だと剣技は覚えられない。剣技を覚えたら性転換はいらなくなる。どっちか1つしか選べないなら剣技1択で間違いないな……うん、間違いない」
「なんだ、キング、性転換ってなんだよ。キングって女の子になりたい人だったのか? いや、僕はキングがトランスジェンダーだったとしても別に笑ったりはしないが。セクシャルマイノリティーをバカにしたりはしないよ」
「違う! いま! オレは! 男の子になりたいんだ!」
「ん? とてもかわいい美少年かと思っていたら、美少女だったのか」
短髪の美少年ではなく、ベリーショートの美少女でしたか。
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