またしても喜べない再会
092
タトラ山ではワイバーンの背中にエイン・ヘリアルが乗っていたが、このドラゴンにも誰かが乗っているようだ。
いきなり文句を言われた。
「誰だ?」
「ひどい上に、冷たい奴だ。自分が殺した相手でも簡単に忘れてしまえるんだな」
「僕が殺した?」
「まあ、生きてるけどな」
僕と同年代の少年がドラゴンの背から顔を覗かせる。
地味な茶色のローブを羽織って、ねじ曲がった杖を持つ、いかにも魔法士という雰囲気だった。
なるほど、僕はこいつを知っているし、殺した相手でもある。
「アーガスか?」
「いかにも」
「手応えはあったはずなんだが」
「死んだとき、1回だけ身代わりになるアイテムなんてゲームじゃあ定番だろうに、勘が鈍ってないか? 剣の技が再現できるのなら、アイテムだって再現できる可能性があると気づけよ、鈍い奴だな」
「絶対的に殺すのなら、首を切断するくらいはしないといけないわけだ。勉強になるよ」
「勉強した成果を発揮する前におまえは死ぬんだけどな。俺はおまえみたいに甘くはないぞ?」
「結局ヘリアルではなく、おまえが黒幕なんだな?」
「ヘリアルは……まあ、お気に入りのオモチャかな? 大陸でトップクラスのクランマスターで、わけがわからないほど金を持ってて、そのせいかプライドがやたら高い奴だったが、魔法戦で泣くまで叩きのめしてやったら素直ないい男になったな、魔法士としての才能もまずまずだったし」
ドラゴンのテイム方法を教えてやったらまた泣いたとか、スタンピードの起こしかたを教えてやったらパンツに漏らすほど感激していただの、アーガスは自慢話を並べ立てたけど――こいつが諸悪の根源じゃないか!
ホーノラス王国の宮廷魔法士筆頭の息子にして僕と同じく転生者。
天才と噂されていた魔法士だけど、その魔法の腕でちょっと世界征服してみようかと思いついたと言う危ない奴でもある。
その一環として僕とフェヘールをバレンシア帝国に仕業に見せかけて暗殺しようとしたのだから、逆に返り討ちにしてやった――はずだけど、どうやら詰めが甘かったようだ。
しかし、まだ遅くない。
たいていのことは、やり直しできるからね。
「まあ、いいや。つまりおまえをちゃんと殺せばいいわけだ。今度は身代わりアイテムのおかげで命が助かるとか、そんな都合のいい希望は捨てろよ。リクエスト通り首を切り落して……そうだなぁ、ゴブリンのエサにでもするか?」
こいつはゴブリンの糞がお似合いだ。
だが、そのゴブリンの糞(予定)はバカにしたように鼻で笑う。
「たまたま運良く一回勝てただけで、自分のほうが強いとか、おかしな勘違いしてないよな?」
「おまえこそ、もう一回やったら勝てるとか、おかしな勘違いしてるんじゃないのか?」
「ちゃんと敗因を分析して、その対策も用意してあるんだ」
「このドラゴンの大軍か? ここはメレデクヘーギ侯爵領だということを忘れるなよ。この程度のドラゴンだったら、すぐに狩ってやるからな! 必ずだ!」
強がりを叫んでみるが、それには返事をせずアーガスは後ろに声をかけた。
「いいや、こっちが用意したのは相棒だよ。頼りになるパートナーだ。ちょっといって倒してきてくれ」
すると後ろにいた人物が姿を見せた。
僕やアーガスと同世代、見た目は12、3。
童顔だったとしても15歳にはなってなさそう。
真っ赤な髪が特徴的な美少年で、優しそうな顔をしているのに、その手にはひときわデカい剣が握られている。
そして、不敵そうにニヤッと笑う。
「オレは弱い奴とはやらないぞ?」
ドラゴンから飛び降りると、そのままの勢いで斬りかかってきた。
鋭い振りだけど、なんの工夫もない正面からの斬撃だから、簡単にかわす。
そのまま頭に一撃食らわしてやろうとしたら、今度はこっちの斬撃を簡単にかわされてしまった。
まあ、剣士同士の挨拶みたいなもんだ。
「僕はクリート・アルフォルド」
「ああ、おまえが剣狂い王子か……そういうことなら相手に不足はない。オレはユユ」
「ユユ? それだけ?」
「名字のあるような立派な生まれじゃないもんでね」
「この国だと庶民も名字くらい持っているから、他国からきたか……」
「………………まあ、ある意味では遠いところからきたともいえるな」
「はるばる遠いところからやってきて、頭のイカレた魔法士の手下になるとは変わった奴だな」
「剣客として雇われただけだ。そういう生き方しかできないんでね」
予備動作なしで、いきなり斬りつけてきた。
だけど、それは僕もできる。
できる技なら、回避することだってできるのだ。
斬りつけてきた剣を跳ね上げて、そのまま膝を狙う。
上方向の軌道だった剣がいきなり下方向に落ちていくと、なかなか目が追いつけない。
だけど、ユユは軽々と捌きながら、どんどん前へ踏み込んで間合いを潰しきた。
いつの間にかユユの剣先が僕の喉を切り裂く軌道に乗っている。
ハゴロモの柄頭でユユの剣を弾いてやった。
しかし、跳ね上げられた剣をそのまま袈裟斬りにかえてくる。
僕は一気に後退して、間合いを取り直した。
そして、後ろにいたフェヘールに白樺救護団や負傷者たちを連れて早く逃げるように耳打ちした。
するとユユは前へ出ようとしてきたので、立ち塞がり話しかけた。
「どこかで見たような剣筋だな。異世界転生ってわかる? アーガスは異世界転生者だけど、もしかしてユユも異世界からの転生だったりするのか?」
「だとしたらなんだ? もしおまえも同じ世界から転生していたとしても、別に命乞いの材料にはならないぞ」
「ひょっとして剣技王と呼ばれてたことはないか? そして、剣技辞典という知り合いがいたりとか?」
「………………ああ、そういうことなのか。ディクが剣狂い王子なのか……懐かしいな、懐かしい。しかし、まあ、古い仲間だとしても仕事を請けてしまったんだよなぁ。ディクがアーガスと仲直りするわけにはいかないのか? そうなれば、この仕事もキャンセルになるかもしれない」
「うーーーん、どうだろう? そもそも僕のほうから仕掛けたわけじゃなくて、アーガスが僕たちを殺そうとしたところからはじまったんだし」
「そうなのか?」
「いまだってアーガスが僕を殺そうとしてエイン・ヘリアルを唆しスタンピードを引き起こしたり、キングを剣客として雇ったわけだろ?」
「それはそうか」
「あと僕の名前はクリート・アルフォルド。剣技辞典は死んだよ……あっ、でも冒険者としてはディクとして登録したけど」
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