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強行偵察は割と楽しい

083



 門の前ではメレデクヘーギ侯爵家騎士団が集まっていた。


 アルフォルド王国で最大――いや、この大陸でも最大規模の騎士団を抱えていて、全部で10000騎を超えるといわれている。


 戦乱期ならばともかく、いまのような長らく戦争のない時代に大規模な騎士団を維持する資金はどこの貴族家にもないが、この土地は稼げるのでそんなことも可能なのだ――むしろ、つねに魔獣の脅威にさらされているので、それなりの防衛力が必要。


 演習が山狩りで、退治した魔獣が騎士団の維持費にまわされる。


 貴族の次男三男で受け継ぐ領地がない者はメレデクヘーギ侯爵家にいけという言葉をよく聞くけど、腕がないと簡単に死ぬので、世界中で最も人気があるのと同時に死傷率の高い騎士団でもあった。


 そんな騎士団のごく一部が今回の偵察に出るのだが――籠城の準備中だし、まさか偵察に主力を出すわけにもいかないから、これでも控え目なんだろうが……


 総勢10000騎のうち、だいたい1割くらいだろうか?


 それでも集まった騎士は1000騎はいるようだ。


 こんなの偵察の規模ではない。


 むしろ攻撃のための軍隊だ。


 ただスタンピードの状況を見にいくのではなく、場合によっては襲撃などもおこなう強行偵察といっていたけど、むしろ最初から殺しにいく気満々だぞ。


 全員が燻し銀の板金鎧で全身をかため、立派な駿馬に跨がっている。


 山中でも、そんな奥深くまで進むわけではないので馬の機動力が生かせるらしい。


 騎士としてみれば徒行より騎乗しているほうが慣れているので、機動力だけでなく、戦闘力もアップが期待できる。


「わたくし、申し訳ないけど今回は留守番にまわる」


「うん、聞いた。怪我人が結構出てるらしいね」


「そうなの……ちょっと手が離せなくて」


「お互いにお互いの義務を果たそう」


「クリートにはクリートの持ち場、わたくしはわたくしの持ち場、それぞれで最善を尽くそう」


 フェヘールがわざわざ強行偵察には同行できないと言いにきたので、事情はわかっているので心配ないと返しておいた。


 城壁の内側に避難してきた住人は数万人もなるらしい。


 それだけの人間が移動すると、いくらでも事故が起きるのだ。


 お父さんが馬から落ちる、お母さんが荷車に轢かれる、子供が転ぶ。


 持病が悪化したり、古傷が痛み出したり、急病にかかったり。


 1人が風邪を避難所に持ち込めば、明日には100人が風邪をひくことになるし。


 フェヘールがかなり忙しいみたいで、正直なところ、わざわざ同行できないことを伝えにくるだけの時間を捻り出すのも大変だっただろう。


 それに対して僕のほうは剣を自由に振りまわせるぞ、わーい! みたいな感じだからね。


 遠征には持っていかなかったアダマント製のハゴロモを今回は試してみるつもりだったりするので、もうね、テンションMAXなんだよ。


 こっちが申し訳なくなって謝りたい気分だったりする。


 気を取り直して騎士たちに続いて僕も出陣した。


「お兄ちゃん、がんばってね」


 早めに避難してきて余裕があるのか、余裕なんかなくても強い騎士を間近で見て安心感を得たいのか、街の人たちが見送りにきてくれている。


 特に子供は大喜びで、僕に対しても声援を送ってくれた。


 素直に嬉しい。


 なんかヒーローでも崇めるかのようなキラキラの眼差しを向けてくるんだ。


 侯爵家の馬を借りたけど、防具は自前で用意していた革鎧だから板金鎧の騎士よりちょっと見劣りする。


 いちおう近衛騎士の使い古しだから、くたびれてはいても品質は悪くないんだけどね。


 だけど、そうやって子供たちの声援を受けると1頭でも多く魔獣を狩って、今後の防衛戦を少しでも有利にしたいと思う。


 しばらく進むと魔獣の気配が遠くに感じられるようになった。


 高いところにも気配があるからワイバーンみたいな飛行能力のある魔獣もいるのだろう。


 そうなると進行スピードにも差があるはずなのに、気配だけでいうと同じように進んでいるようだ。


 スタンピードというと魔獣の暴走みたいなイメージだけど、実際には統率がとれているようなところがある。


 軍隊みたいに正確なものではないとしても。


 指揮官みたいな魔獣がいるのなら、そいつの首をとれば終わるかな?


 魔王とか、わかりやすいボスがいてくれると楽なんだけど……そんな単純なものでもないんだろうな。


 その役割は本来ヘリアルのはずなのに、あいつが死んでも事態は変わってないし。


 いま接近中の魔獣も足の早い順にくるのなら各個撃破のような形がとれるから、少しは楽に戦えるのに。


 そんなことを考えているうちにスタンピードの最前線まで100メートルを切った。


「魔法士、デカいの撃て! その後、総員突撃!」


 バンバンと前方で魔法が炸裂する中、僕が先頭で斬り込んでいく。


 出発のときは後ろのほうだったけど、魔獣の気配を感じたあたりからじわじわと前へ出ていき、いいポジションをとったからね。


 その上、この中では僕が一番体重が軽く、革鎧も軽量だから、騎馬突撃では断然有利。


 と油断していたら、さっと横から抜かれた。


 僕が借りたのよりずっと駿馬に跨がって、帽子にマント、防具らしい防具といえば胸当てくらいの軽装備。


 水溺姫だ。


 装備だけじゃなくて、体重も軽そうだけど、魔法士が騎馬突撃するとは予想外だから勘定に入れてなかったよ。


 杖をサッと振るとスタンピードの先頭が消滅した――文字通りの消滅で、直径50メートルくらいの範囲が爆発し、クレーターのように地面がえぐれている。


 いまの一撃で100頭の魔獣は屠っただろう。


 さらに、魔法の効果外にいた群れからスピードを生かして突出してきたフォレストウルフの首がスパッと舞う。


 ウォーターカッターのような魔法みたいだ。


 さらに杖を何度も振り、10頭近くを一瞬にして屠る。


「強い!」


 それを追うようにランゲ団長がやってきて、山ごと燃やす勢いで魔獣の群れを焼き払う。


 この魔女のバーサン、ものすごく強い!


 ローブや杖の宝石が赤なのは火属性魔法が得意ということを誇示するため?


 負けてられないから、僕のほうも向かってきたフォレストウルフをどんどん突き殺していった。


 さすがアダマントの剣だけあって硬い頭蓋骨でさえスパッと抜ける。


 なかなか例えが難しいけど、箸を豆腐に突き刺すくらいの感覚だろうか?


 ほとんど力らしい力をくわえていないのに、一瞬で剣先が深く刺さってて、やった僕自身がびっくり。


 そのまま魔獣の群れに突っ込み、目の前の敵を突いていく。


 三方向に薄い刃のついた三角錐のような直剣だから切り裂くという用途にはまったく向かない。


 斬るはオマケ。


 突き技専用剣だけど、いまは槍のように馬上から襲いかかってくる魔獣を攻撃できる。


 これが戦争だと相手は弓や槍を使うだろうから、剣ではリーチが足りなくて不利だけど、魔獣を相手にするのなら問題ない。


 突き技専用剣であり、同時に対魔獣専用剣でもあるのだろう――刀剣鍛冶がどういうつもりで打ったのか正確なところはわからないけど、ひょっとしたら、さらに専門的な、特定の魔獣と戦うためにだけに製作されたものなのかも。


 それがどんな魔獣で、どんな剣技を想定したものなのか、僕にはわからないけど。


 もしそうだとしたら心が弾むよね。


 このハゴロモを効果的に使う剣技を使えるようになるのが僕の当面の目標。


 あるいはハゴロモを作らせた人を見つけるか。


 きっと、その人は剣についてなにかを知っていると思う。


 この世界に剣技というものがないわけではないけど、原始的というか、ぜんぜん洗練されてないし、どっちかという筋肉と体重と上背で勝負が決まるところがあった。


 テクニックではなく、フィジカル重視。


 逆にちょっとしたフェイントなどでも簡単に引っかかってくれるところがある――本物の強者にはかなわないが、意外と有効だったりする。


 まあ、だからこそ僕みたいな13歳の子供でもそれなりの騎士を相手にして戦えるし、他国にまで剣狂い王子などと2つ名が広まっているみたいだけど――しかし、剣狂い王子は名誉よりは不名誉のほうに寄っているような気がしないでもないが。


 経世済民のための勉強をすべき王子という立場がいけないのであって、市井の少年として生まれていれば、きっといまごろ天才剣術少年として周囲から絶賛されていただろう。


 騎士として仕官とか、有力な冒険者のパーティーやクランから勧誘とか、素敵な話がいっぱいあったと思う……絶対あるよ、たぶん、きっと。


 そう思いたい。


 ただ、王子という地位があったからこそ近衛騎士団と稽古させてもらったり、いまこうやって魔獣の討伐で有名な侯爵家に招待されたり、スタンピードの渦中に飛び込んだり、市井の少年だったら経験できないところで剣技を磨くことができているのだけれども。



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