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フェヘールは聖女様

008





 いまのところ順調に聖女として成長しているフェヘールだが、僕のざっくりした説明で男の母斑を完全消去は難しいかな? と思っていた。


 もっと具体的な病状の説明と、治療方法を説明できればよかったのだが、あいにく僕は前世でゲームばかりやっていてチート知識はさっぱりだ。


 一般的な雑学の範囲を超えて、医学の解説なんて無理に決まっている。


 ところが、さすがは聖女。


「この者に神の慈悲があらんことを」


 パーッと手のひらが輝いたら、その光が収まったとき男の顔から母斑が消えていた。


 実はこの世界の魔法はとても地味だ。


 脳内に結果をイメージし魔力を流すだけ。

 

 イメージがあやふやだったり、魔力が不足してると不発に終わる。

 

 そうでなければ成功するが、本当なら光ったりはしないんだよ。


 まあ、ゲームのようにいかにも魔法を使っていますという演出をする必要はないから当然といえば当然だけけど。


 だけど、聖女の魔法なら光のエフェクトくらいは欲しい。


 ということで、僕に治癒魔法をかけるときは元々の地味仕様でいいけど、みんなの前ではピカーッと光るエフェクトをつけるように言ったのだ。


 呪文の詠唱だって絶対に必要なわけではないが、神の奇跡ということにしておけば面倒が少なくていい。 


 治癒効果だけでなく、演出までパーフェクトに聖女仕様だ。


 こんなの見せられたら感激してしまうよ。


 実際、フェヘールが「なおった」と呟くと、男は手に持ったナイフをマントにこすりつけて血を拭い、ピカピカになった刃で自分の顔を写し……いきなり意味不明な叫び声をあげた。


「うぐうぐ、うぐ……」


 声を殺して泣いているらしい。


 しばらくして落ち着くと、いきなりフェヘールの前で土下座した――この世界に土下座はないから、地に伏せたというほうがいいのかな?


 どっちにしてもフェヘール教の信者がまた1人、爆誕した瞬間だった。


 白樺救護団の連中とかも、こんな感じなんだよね。


「やめてちょうだい」


 一方でフェヘールはいつものように、うんざりしたように言う。


 女神様みたいに扱われても面倒な顔しかしないんだよね。


「さきほど、お連れのかたがお名前を呼んでらっしゃった。噂に聞いたアルフォルド王国の聖女様の同じお名前。実は白樺救護団ならば助けてくれるのではないかと思ったものの、まともに話を聞いてもらえるか悩み、ずっと人里から離れたところをさまよっていたら……まさか、聖女様ご本人に治癒魔法をかけていただけるとは。このキスロ、いかなる謝礼であろうと用意いたします」


「欲しいものなんて、なにもない」


 即座にフェヘールが断る者だから、慌てて僕が間に入った。


「いま僕たちが欲しいもの、ちゃんとあるよ。すごく欲しい」


 前半はフェヘール、後半はキスロと名乗ったマントの男に向けて言う。


「聖女様が欲しいもの? このキスロで用意できるものなら、なんなりと」


「まずは態度を元に戻してもらいたい。傍若無人に振る舞われても困るけど、畏まられるのも好きじゃないし、もちろん聖女様と呼ぶのは禁止。アルフォルド王国の貴族が侍女も護衛の騎士もなく、こんな森の中にいるのは異常なことだと察してもらいたいんだ。いまはいいよ、誰も聞いてないから。だけど、他人に聞かれるとちょっと困ったことになりかねない。もちろん、僕たちと別れた後も聖女に会ったとか、治療してもらったとか、そんなことを喋るのは禁止。それから……」


 マントをカツアゲした!


 いや、さすがに本人の着ているマントを剥いだわけじゃないよ。


 他に持ってないか尋ね、野営のときに地面に敷いたり、雨避けのテント代わりに張る布なら持っているというので譲ってもらっただけ。


 それから冒険者ギルドのことを尋ねると、やはりキスロも冒険者だったらしい。


 3年ほど前に右頬が黒ずんできたと思ったら、どんどん広がっていって、それとともにトラブルに巻き込まれるようになり、とうとう街で暮らすことを諦め、森や山などで野外生活を送っていたとのこと。


「僕たちは自分たちの国に帰りたいんだけど、身分証もなにもないのでは街に入るのも難しいし、国境を越えるのはもっと難しいと思う。それで冒険者ギルドで登録したらどうだろうかと考えたんだ」


「そういうことでしたか。そういうことなら自分が送っていきます」


「敬語禁止!」


「いや、いくらなんでも……ちなみに坊ちゃんも身分の高い方なのでしょう?」


「こういう会話を他人に聞かれたら、聞いた奴はそう思うだろうね」


「確かに、そうだ…………気を悪くしてくれるなよ、そもそも俺は身分なんてもん、最初から持ち合わせてねぇ冒険者なんだし」


「そうそう、それでいい。フェヘールもいいよね」


「かまわない。むしろ、このほうがいい」


「ガキがいてもおかしくねぇ年齢のオッサンだが、独身のままで子持ちはつれーな。頼むから、ここは年齢の離れた兄弟ということにしておこうぜ。お兄ちゃんが妹と弟を連れてアルフォルド王国いく……そうだなぁ、アルフォルド王国に親戚がいて、そこにいく。どうだ?」


「僕たちが頼みたいのは冒険者登録までだ」


「そうね、それが無難」


 他人を巻き込む気はない。


 冒険者ギルドで登録しても依頼は請けないと決めたのと同じだ。まだ事情はわからないけど、はっきりわかっているのは国や貴族がかかわっているのが確実なところ。


 そんなもんに一介の冒険者がかかわらせるわけにはいかない。


「いや、ちゃんとアルフォルド王国まで送っていくぞ。救ってもらった恩がある」


「せっかく助けた命なんだから、ちゃんと大切に最後まで使ってちょうだい」


「しかし、国まで送るくらいはしないと……」


「わたくしのことを知っているのなら、侯爵令嬢という身分も承知しているはず。あなたがわたくしと同格か、それ以上の貴族なら巻き込んでもなんとかしのげるかもしれないけど、平民がかかわれることではないということは理解しなさい」


「俺だって腕に覚えの冒険者だ。そうそうやられたりはしない」


「でっちあげの冤罪で逮捕しようと騎士団で囲んだり、そのまま処刑したり、貴族が冒険者を殺すのは簡単。わざわざ殺す必要はないが、念のため始末しておくか、というだけで簡単にやってしまうわ」


「それは……」


「国や貴族のトラブルに巻き込まれてはダメよ」


「だが……」


「救ってもらった恩があると言いながら、簡単に命を捨てたらわたくし、怒る」


 フェヘールが頬を膨らませた。たぶん怒ったふりなんだろうけど、むしろかわいい。


 それでも説得はできたようで、キスロは頷いた。


 それまではキスロの設定通り、年の離れた兄と、妹弟が旅をしていることにすると打ち合わせをしておいて、僕たちは近くの街に移動した。









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