ワイバーンとの戦いは絶望しかない
078
鋭い牙を剥き出しにして突っ込んでくるワイバーンに対して、僕は剣を低く構える。
剣技のスタートフォームだ。
「ヴィルベルヴィント」
いま、この瞬間を見極めて下げていた剣先を跳ね上げるようにするのと同時に両足のバネをきかせてジャンプして、急降下してきたワイバーンに対してカウンターで斬りつける。
狙いは首元。
喉を裂く軌道。
剣が薙いだ瞬間、さらに全身を伸ばすようにして上方に反動をつけ、一瞬、剣を引き、さらに追撃の突きを放った。
薙ぎ払い、切り裂いた喉に剣先を突き刺す。
物理法則的に無理が結構ありそうな技だけど、魔法がある世界で身体強化ができるのだから、こんなゲームの剣技も再現できてしまう。
僕は魔力を外に放出する魔法はさっぱりだけど、逆に身体強化系はすごく得意だし。
剣先にしっかりとした手応えを感じると、墜落するワイバーンから剣を引き抜いた。
ズシャーンと派手な音を立ててワイバーンが地面に激突する。
このあたりはドラゴンと違う。
ワイバーンなら鋼鉄の剣で充分に通用するのだ。
「ヴィルベルヴィント」
次に突っ込んできたワイバーンも斃し、さらに剣技を振るう。
しかし、ワイバーンは魔獣の中では頭がいいほうだから、何度も同じ手が使えるわけでもない。
カウンターで斬りつけたのに体をそらされて浅手に終わり、突き技は完全に外された。
僕のすぐ横をワイバーンが飛んでいく。
仕留め損ねた!
「ヴィルベルヴィント」
とっさにいままで使っていた「シュトゥーカ」と対になる、斬り落としの剣技を出す。
大剣を上に跳ね上げ、いま通過しようとしているワイバーンの背に叩きつけ、それでも進もうとするところを突いた。
剣先が骨に当たる感触が手に伝わってきたところを強引に押し込む。
背骨を断たれたワイバーンは急に飛行能力を失って地面に転がった。
だが、そのとき強い衝撃を受けて僕も地面に転がる。
さらに突っ込んできたワイバーンの頭突きをまともに顔面にもらったようだ。
1対1なら負けないんだけど……やっぱり数の暴力に屈することになるのか?
前世のゲーム世界にいた頼りになるフレンドやギルドのメンバーが何人かいてくれたら……どこかに僕みたいに異世界転生した剣士がいないか探してみてもいいかもしれない。
バッと光って、鼻や頬の骨が折れたんじゃないの? という激痛が消えた。
いや、すでに僕には頼りになるパートナーがいるじゃないか!
「フェヘール、ありがとう」
彼女の治癒魔法に感謝しつつ、大剣を取り直したが――すぐ目の前までワイバーンが迫っている。
撃墜どころか、避けることすらできない。
せっかく治してもらったのに、さっきよりひどいダメージを負いそうだ。
いや、むしろ頭が吹き飛んで即死しなければ幸運だろう。
ワイバーンはそんな勢いだった。
覚悟して衝撃に備えようとしたとき、後ろからビュンと耳をかすめるように戦斧が飛んできてワイバーンの顔面を割る。
「1人で全部は無理ぢゃろ。少しわけろ」
ドワーフのキナだ。
冒険者たちがどんどんこっちに駆けつけてくる。
そうだ!
なにも異世界転生者にこだわる必要はない。
この世界にだって頼りになる仲間を作ることができるはず。
「王子、俺たちだって冒険者だ」
「ワイバーンを狩ったことだってある」
「あまりナメてもらっては困る」
そんな言葉を聞きながら、少し気持ちを緩めたときだった。
ナメるなと言った冒険者の顔が消える。
急降下してきたワイバーンがパクリと噛みつき、持っていってしまったのだ。
「クソッ、ワシらは殺しにきたのぢゃ、殺されるような弱い奴は後ろにひっこんでいろ」
キナが怒鳴りつける。
だけど、さがろうという冒険者は1人もいなくて、みんな武器を振りまわす。
するとワイバーンは降下して攻撃するのをやめてブレスを吐く。
まだ10頭以上いるワイバーンがブレスで攻撃をしてこようとしているのだ。
「盾を並べて!」
ドラゴンのブレスとは比較するまでもないものだから大盾でもあれば充分に防げる。
問題は大盾はいくつもないし、小ぶりの盾でさえみんなが持っているわけではないところ。
なけなしの盾をかきあつめて前面に押し出すが、何頭ものワイバーンが次々に吐くブレスを完全に防ぐことはできず、抜けてきた火炎が僕たちを襲う。
しかし、すぐにフェヘールや白樺救護団が治癒魔法をかけてくれるので脱落する者はいない。
「でも……これは……じり貧だぞ」
魔力は無限というわけではないから、このままの状況が続けばそう遠くない将来、治癒魔法が使えなくなるだろう。
そうなれば負傷した者が戦線復帰できなくなり、残った者が無理をして、さらに状況が悪化していき、負傷者が増加し続けるという、最悪のパターンにハマってしまう。
防御陣が崩壊するのも時間の問題だ。
だけど、上空にいるワイバーンを攻撃する手段に乏しいのは覆せない。
少ない弓と、もっと少ない魔法士が、どんよりと厚く雲のかかる空に向けて矢や魔法を放つがワイバーンには効果が薄い。
効いてないわけではないが、ゲーム的に例えればHP10000の敵対的モンスターに対して1回あたりの与ダメージが10とか20とか、そんなもん。
たまにクリティカルが出たり、威力の強めな魔法が当たって50や100になる一方で、外れて0だったりもする。
決定的にDPSが足りなくて、このままだと絶対に削りきれない。
降下して襲ってきてくれれば僕の剣技も使えるけど、さすがに数百メートルも高度があると手も足も出ないのだ。
それは他の冒険者も同じで、剣や槍では戦うことすらできない。
一方的にブレスを吐かれ、盾の後ろに隠れ、やられたら治癒魔法を受けるだけ。
「この近くに洞窟かダンジョンでもないのか? どこか狭いところなら……」
僕が大声でみんに聞こえるように質問すると、キナさんがそう言われてようやく思い出したとダンジョンの場所を教えてくれた。
「近くってほど近くはないような……」
「このへんには、そこしかないんぢゃ。ずいぶん前に発見されたが、弱い魔獣が出るだけのハズレだったダンジョンとして放置されておったわ」
「いまの僕たちは強い魔獣が湧くダンジョンに突っ込んだら簡単に全滅しそうだし、ちょうどいいといえば、ちょうどいいか……総員、聞け! 盾を最後尾に、少しずつ後退してダンジョンに入る!」
「おう!」
元気な返事が飛んでくる。
まあ、全滅を少しだけ遅らせている状態から、ひょっとしたら全滅を免れる可能性が出てきたのだから、やる気も湧いてくるだろう。
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