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どんどん味方が減っていく

077



 谷を抜けていくと、またしても魔獣の気配に阻まれた。


「ゴブリンだ! 群れできているぞ!」


 みんな背後の気配を探るのに必死で、先頭が接敵するまでゴブリンの姿に気づかなかったようだった。


 ゴブリンもゴブリンで年を経た個体が仕切る群れだと、できうる限り気配を絶って、茂みや岩の影に隠れて待ち伏せしたり、少しは知恵を使ってくる。


 作戦とか戦術というには拙いけど、バカにしていいものでもない。


 険しい崖をよじ登って迂回するのは難しいし、このまま谷間を抜けていかないとスタンピードに追いつかれてしまう。


 だいたい、相手は群れとはいえゴブリンだ。


 もし迂回できたとしても、その時間を計算すれば戦闘のほうがずっとずっと早いはず。


「強行突破できますか?」


 接敵を知らせた騎士に向かって叫んだ。


「やります。隊列を組め、押すぞ!」


 5人組が前後2班になって谷間の細い道を塞いでいるゴブリンの群れに突っ込んだ。


 前の5人はゴブリンを右側の崖に押し込めていく。


 その後ろにいた5人が残るゴブリンを左側に押していき、正面が通れるように切り開く。


「みんな進め、進め、足を止めるな!」


 10人の騎士が作ってくれた隙間をこじ開けるように僕たちは走る。


 抜けたところで後ろに声をかけた。


「もういいですよ」


「追撃されたら面倒だ。王子たちは先にいってください」


「いっそみんなで協力してさっさと全滅させたほうが早いんじゃないですか?」


「相手はゴブリンですよ、俺らだけで充分です」


「わかりました。先にいってます」


 これでメレデクヘーギ侯爵家の騎士は全員いなくなり、冒険者と、マトルさんたちポラーニの有志、白樺救護団、フェヘールつきの侯爵家使用人ジョンさんとチュクさん、そして僕たち。


 もともと60名いたはずの残留防衛隊は半分以下となった。


「全速前進! 血と引きかえた時間を無駄にするな!」


 僕にしては珍しく、声を荒げる。


 谷を抜けると、次は斜面をいく。


 地理的にはタトラ山という、おそらく標高3000メートルくらいの――一般的には高山だけど、このあたりでは平均よりやや低いクラスになり、しかも全体的になだらかだから速いペースを維持できる。


 もっとも、魔獣にとっても進みやすいだろうから、別に僕たちのみが有利というわけではないけど。


 しかし、騎士たちが命がけでゴブリンだけでなくスタンピードとも戦ってくれているのか、後ろから追いかけてくる気配はなくタトラ山の登りが下りにかわった。


 登山ではないから、なにも頂上までいく必要はなく、6合目か7合目あたりで横にそれて下山コースになるのだ。


「これなら上手く逃げ切れるか?」


 そんな心に余裕が出たのがフラグになったのか、魔獣が急速接近してくる気配がした。


「なんだ!」


 あまりにも速い――これはフォレストウルフなんか問題にならないほどの高速だ。


 3倍?


 5倍?


 ありえない速度に愕然とする。


 こんなの一瞬で追いつかれてしまう。


 気配を読むのに長けた冒険者たちもざわついていた。


 そのうちの1人が僕を突き飛ばすように先に促す。


「あなたたちは逃げてくれ」


「えっ?」


 フェヘールを押しつけられるが、僕としては納得できない。


 感じる気配は速いだけでなく、強い。


 オーガとか、そんなものとは違う。


 どちらかといえばドラゴンに近いかも。


 数も……少なくとも10頭はいる。


 ここにいる冒険者では倒すどころか、時間稼ぎすら難しそうだ。


 しかし、彼らの意思は固かった


「聖女様を死なせて自分は生きて帰ってきたらメレデクヘーギ侯爵領にはいられなくなる」


「肩身が狭いどころじゃないぞ」


「なにが近づいてきているのかわからないが、なんとか切り抜けてやるぜ」


「そうだ! これでもベテラン冒険者だからな」


「いよいよヤバければ俺たちも逃げるさ。逃げ足の速さだったら誰にも負けないし」


「それなら俺のほうが速いぜ」


 冒険者たちは気勢を上げたり、ちょっとした冗談で大袈裟に笑ったりしている。


 そのときチュクさんの犬耳がピクピクした。


「上!」


 その声につられて反射的に顔を上げると黒いものがいくつも見える。


 なんだろう?


「ワイバーンね、10……20に近いか?」


 そんなチュクさんの呟きを聞いたマトルさんも僕とフェヘールを急かす側にまわった。


「私も時間を稼ぐから、早くいってください」


「あんなの時間を稼ぐもなにもないでしょう。一方的に蹂躙されて終了だ」


 ここには弓や魔法など対空攻撃ができる人はあまりいない。


 剣や槍とは相性が最悪で、そもそも戦うのが難しい魔獣。


「こんなときにアペフチがいたら……」


 フェヘールが呟くが、ドラゴンに対して貸した借りを返却してくれると期待するようなもんじゃないし、取り立てるのも無理。


 ドラゴンを従わせることはできないからね。


 そもそも、あの恩義を感じているんだか、そんなムーブをしているだけなのか、まったく判別できない赤龍はここにはいないのだ。


「みんなでフェヘールと白樺救護団の人たちを守って」


 言い残すと、僕は下っていたタトラ山をふたたび登る。


 少しでも高度があったほうがワイバーンには有利だ――まあ、前世でやった『ヴァービンデン・オンライン』でさんざんやりあったゲームの経験からなので、この世界で通用するのか知らないけど。


 背負っていた荷物を放り出し、剣を抜いて、ワイバーンを待ち構える。


 さあ、ここにエサがあるぞ。


「こいよ、僕を食ってみろ」


 どんどんワイバーンが近づいてきた。


 全長は15メートルくらいだろうか?


 だいたいゲームと同じだ。


 飛行スピードもあまりかわらないような気がする。


 そう悪くない条件だね。


 VR世界で体に染みこむまで経験したことは、この世界でもちゃんと生かせる。


 先頭のワイバーンが僕をオヤツにしようと、大きく口を開いて急降下してきた。


 スーッと大剣の切っ先を地面に触れるほど下げて構える。




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