スタンピードのはじまりは?
069
魔獣を壊滅させた僕たちは増援部隊とともに本隊に戻り、休憩をもらって昼食をとることとなったのだが、みんな黙々と食べるのみ。
戦闘後――しかも最後には撤退したけど、こっちの損害は0で、魔獣を一方的に叩いたのだ。
こういうときは手柄話みたいなもので騒がしいのが普通なのに。
なんか変だ。
魔獣の様子もおかしかったけど、みんなの様子もおかしい。
ベーコンと豆の入ったトマトスープにパンを浸しながら、隣で同じものを食べているフェヘールにそっと尋ねる。
「どうなってるのか心当たりは?」
「ある……かもしれない」
「なに?」
「スタンピードの予兆かも」
「うっ……」
なるほど、明るく、楽しく食事なんて無理だ。
魔獣が大量に湧いて集団暴走することだけど、基本的に発生源はダンジョンとなる。
つまり、この森のどこかにスタンピードが発生しかけているダンジョンがあるはずだけど、それがどこかわからない。
そもそも森の地図さえまともなものはなくて、あまりにも未踏破地域が多すぎ、いまから問題のダンジョンを捜索するのも難しいから、たぶん発生源を塞ぐのは無理。
「スタンピードの発生は確定かな? でも、まだ時間はありそうだし、メレデクヘーギ侯爵家まで辿り着けば、あそこは街全体が城みたいなものだから、この遠征に同行しなかった騎士や冒険者もたくさんいて兵力も充分」
「ただし、それをやるとポラーニは守れない。悲願の山越えに必要な重要拠点をやっと手に入れたのに」
「ああ……ここは助からないか……」
「それこそ、この一帯すべてが魔獣の大群で埋め尽くされてもおかしくないから。最終的にどんな規模になるかわからないし――案外と小規模ですむかもしれないけど」
「そのあたりは神頼みになってしまうね」
「なにもわかってないうちに自分の都合のいいように物事が進むなんて勝手に信じ込むのは危険だわ」
「どうするんだろうね? みんなでここに立て籠もる?」
「さあね……いまから発表されるみたい」
食堂として使っている大テントにメレデクヘーギ侯爵が入ってきた。
騎士たちが立ち上がろうとするのを制する。
「食事を続けてていい。話だけ聞け。偵察に出した他の2班も戻ってきた。ともに魔獣の襲撃を受けたそうだ。どうやら、大量の魔獣が森の中にあふれているようだ。まだ初期の段階だと思われるが――これはかなり大規模なスタンピードが予想される状況とみていい」
ポラーニを放棄する、と侯爵は言った。
まさかという感じで全員が息を呑む。
メレデクヘーギ侯爵家の悲願である山越えにおいて、ここ何十年で最高の成果がポラーニという新拠点を手に入れたことだ。
それをあっさりと捨てる――いや、あっさりではないだろう。
考えて、考えて、考え抜いての苦渋の決断だ。
ポラーニはただの村ではなく、砦レベルの防衛拠点になっているが、それでも大規模なスタンピードに耐えるのは難しいだろう。
結局、ポラーニは陥落し、防衛していた住人や騎士、冒険者は壊滅する可能性が高い。
損害だけが予想され、得るものがまったくないとなったら、放棄&撤収という選択肢は現実的だ。
「食事を済ませたら、いつでも出発できるように準備しておけ」
侯爵は言ったが、それをフェヘールが遮る。
「もう遅い」
「だね」
僕も同意した。
外で騒いでいる声が聞こえてくる。
すぐそこまで魔獣の群れが迫ってきているのだ。
「お父さま、ここの住人を連れて脱出してください」
フェヘールの言葉にギョッとした顔をする侯爵。
しかし……まあ………………なんだ。
それしかないだろうね。
「そんなに長くは稼げませんよ。まあ、どうだろう? 稼げる時間は……数日くらいなら、なんとかなるかな?」
僕も居残り組に志願する。
このポラーニの住人は基本的に非戦闘員のほうが多い。
軍事基地というわけではなく、もともとは隠れ村なんだから女性や子供も結構いるしね。
それらを騎士や冒険者で守りながらメレデクヘーギ侯爵家まで逃げるとして、誰かが時間を稼がないと魔獣の群れに追いつかれてしまうだろう。
もし時間稼ぎをするならポラーニに立て籠もって魔獣の群れを迎え撃つのが一番いい。
だが、侯爵は首を横に振った。
「まさか王子を死なせるわけにはいきません」
「僕も死ぬつもりはないですよ、適当に時間を稼いだら全力で逃げます」
実質的にファルカシュ子爵領はフェヘールの領地みたいなものだし、ポラーニはその領都となるのだから、彼女にしても、僕にしても防衛義務を果たしてからでなければ逃げるわけにはいかないのだ。
つまらない貴族の見栄であり、くだらないプライドみたいなものだけど、これがあるからこそ領民は領主を認め、税を払うわけだからね。
そこにコチシュ隊長が立ち上がった。
「自分も残ります。王子の命を保証することはできませんが、全力を尽くすことは誓います」
すると騎士たちが立ち上がった。
「自分も志願します」
「自分も」
「やります」
そんな声があちらこちらから聞こえてきた。
きっとコチシュ隊長は部下から慕われているのだろう、騎士たちは全員が残留を志願する。
さらにジョンとチュクも残ると言う。
まあ、護衛対象のフェヘールが残るなら、同じように残るか――辞職するしかなくなるよね。
メレデクヘーギ侯爵は唇を歪めて無言で僕たちの顔を眺めていたが、しばらくして頷いた。
「ポラーニの住人を守るのも重要だが、さすがに志願者全員はダメだ。こっちで人選する。時間がないから異議は認められない。しかし、とりあえずは全員で門を守れ!」
食堂用のテントから一斉に飛び出していく。
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