不穏な気配
067
突撃命令が出るのと同時に喊声が湧き上がり、おっかない面構えの連中がぶっそうな武器を手に突っ込んでいく。
その背中に当てることも厭わぬ勢いで矢や魔法が飛ぶ――もっとも、本当にフレンドリーファイアーするような下手糞は1人もおらず、すべてが魔獣に命中した。
僕もその一員として最前線で剣を振りまわしていて、ものすごく楽しんでいる。
本当にメレデクヘーギ侯爵家の魔獣狩りは危険をできるだけ減らし、かつ効率のよいものとして完成しているのだ。
いまも襲ってきたエビルハウンドとゴブリンの混成部隊みたいな群れをわずかな時間で殲滅することに成功した。
誘拐事件があったり、アダマントの鉱脈があるダンジョンや、ドラゴンとの交戦などトラブルが続いたせいで、探検隊は一度街まで戻ることになったのだ。
しばらく休息してあらためて編成された探検隊は、ふたたびメレデクヘーギ山脈に踏み込むことになった。
主な目的は道路整備。
チヴァスィ王国の末裔たちが隠れ住んでいたメレデクヘーギ山脈の集落は正式にファルカシュ子爵領に編入され、滅びた王都の名をとってポラーニと名をつけられ、そこまでいくルートを確保するため、もともとの探検隊より100名も多くなった。
これまで侯爵家が整備してきた山中の道から外れた後ポラーニまでいくルートは少人数が往復するための細々としたものである上に、隠し通路みたいなものだからわざと荒れた状態だったから、それを大きく広げる工事をしながら進んでいく。
そしてポラーニまでやってくると、運んできた大量の物資を積み上げた。
ここを拠点に森を進んで、さらに先に進めそうな場所を探すのが今回の最大の目的だ。
森の中で戦闘すること5回、すべて襲ってきた魔獣を倒すことに成功していたが、それなのにメレデクヘーギ侯爵には納得いかないことがあるみたい。
「なにか……おかしい。偵察隊を3班編制しよう。周囲の様子を調べさせるのだ」
すぐに指示を出した。
そういえば今回は道路工事のために雇われた冒険者や、その分必要となる食料などの資材を運ぶため前回より増員された探検隊だったが、侯爵家の嫡男で次期当主のはずのヴァイガはお留守番。
理由は聞いてないから知らない――察しはするけど。
まあ、結果だけを見たら悪くなかったと思うから、僕としては参加してもらってもよかったし、なんならまた一緒に偵察にいってもかまわないんだけど。
どういう奴かよくわかったし、またしてもつまらないことをするなら山の中の人気のないところで、なにか不幸な事故が起きることになるだけ。
この世界では王子という身分もあってかギスギスしたトラブルはほとんど起きないけど、前世のゲームの中ではチートを使うプレイヤーや、暴言を吐くなどマナーが悪い奴とか、トラブルは結構あったからね。
やんわりと注意するところからはじまって、ぜんぜんダメなら運営に通報してBANしてもらったり、それができないときは相手がアカウントを消すまで殺し続けるような陰湿なものまで、たいていのことは一通り経験しているが……だからといって、できれば婚約者の兄をこっそり始末するようなマネはしないほうがいいんだけど。
僕とフェヘールは第1偵察隊に選ばれた。
そのまま正面方向に進んで先行偵察する役割となる。
指揮官はコチシュというベテランそうな騎士で、聞けばメレデクヘーギ侯爵家騎士団の団長をやっているという。
それが今回は第1偵察隊の隊長だ。
腕も性格も最高の人物なのだろうから、前回みたいなことは起きないだろう。
そのコチシュ隊長の指揮のもと、森を進んでいく。
ここらへんはオークの森のようで、僕の両手でさえあまる太いサイズが揃っているから、もし伐採して持ち帰ることができれば大変な財産なんだけど……場所が場所だから無理だろうね。
もっと高額で取引されているレア素材がいくらでも転がっているメレデクヘーギ山脈だから、小さくて、軽くて、ずっと価値のあるものをたくさん持ち帰りたいところでもあるし。
ハマっていたゲームで新マップ解放されて、素材も新しいものが実装されたときのような気分。
仲のいい生産職にレア素材を持ち込んだときの驚く顔を思い出すと自然と頬が緩む。
そんな新素材を一発で使いこなせるわけないから、何度となく試行できるように、ある程度の量を確保するのも大切だ。
それでも失敗するときは失敗するんだよね。
気まずい顔をして「すまん、全部ダメにしてしまった。もう一回採ってきて(あるいは掘ってきて)くれないか?」と渋々口にするフレンドの顔など前世の楽しかった記憶も浮かんでくる。
そんなことを考えていると、つい周囲にあるものに意識が向いてしまいそうになるが――いまは偵察中だ。
あそこに転がっている、あの石、ひょっとして珍しい鉱石じゃないのかな、と拾いたくなる気持ちは抑えておかなくてはいけない。
かわりに気配を探る。
魔獣がそこそこいるけど、どれも小型で、脅威としては小さいみたいだ……いや、さらに森の中を踏み込んだ深い場所には大型の魔獣が何頭かいるみたい。
「なんだろう? オーガっぽい気がする」
「そうね……オーガもいるけど、フォレストウルフもいるかも」
隣を歩くフェヘールに尋ねると、僕以上の精度で探知した結果を教えてくれた。
さらに集中してフォレストウルフの気配を探る。
なるほど……いるかもしれない。
残念ながら僕の気配探知ではなにかいるとか、どこにいるとか、そういうことはわかっても、なにがいるかなど詳細情報まではわからないのだ。
まだまだ精度が甘いんだね。
ただ、フォレストウルフがいるかもしれないという事前情報を元にして探れば、なんとなくわかることもある。
いまも確率としては6割とか、7割くらいだけどフォレストウルフらしい気配は感じ取れた。
ん?
でも……ちょっと待てよ。
フォレストウルフは群れを作る習性があるし、オーガもオーガで群れを作ることがあるから、それぞれが集団でいてもおかしくないけど。
「なんでオーガとフォレストウルフが一緒にいるんだ? 争っているという雰囲気ではないし」
「お互いに避けて、もっと倒しやすい得物を狙うか、すごくお腹がすいてるのなら殺し合いをするか、そのどちらかなのにね」
「種族を超えて友情か、愛情かわからないけど、なにかを育んでしまったとか?」
「そういうことが希にあるのかもしれないけど、群れを作るほどの頭数が全頭そういうことになる可能性はありえないわ」
どういうことだ? と頭をひねったが、すぐにフェヘールの言葉に思い当たった。
今日はポラーニを出発して5回も魔獣とバトルになったが、それぞれの襲撃で複数の魔獣とやりあうことになったのだ。
その中にはアーマードベアやエンペラースコルピオンのような群れを作る習性のない魔獣もいたのを思い出す。
あるいはゴブリンみたいな最弱がエサになることもなく、もっと強い魔獣とともに襲ってくることもあった。
「侯爵が言ってた違和感がこれ?」
「そうね、たぶん。異常なことを放置して本隊をこのまま進めるより、少しでも情報を集めたいんじゃないかしら?」
「フェヘール、動いた!」
「くるわ」
オーガとフォレストウルフの集団がこっちに向かって急速接近中。
やっと第4部を始められます。もともと第3部の後半部分として想定していたのですが、長くなりそうなので別にしたのですが……考えていたより長くなったというか、ちっとも話が終わってくれない。
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