鉄の剣では斬れません
063
味方を壊滅させたのはドラゴンのブレスだ。
あの威力、並のドラゴンではない。
その巨体を見てもそうだ。
高さも、幅も10メートルを超える大きなダンジョンなのに、そのドラゴンの周辺だけは窮屈に見える。
全長は……よくわからん!
もっと広いところで俯瞰できれば正確にわかるけど、正面から見ると尾なんか完全に隠れている。
少なく見積もって30メートルはありそうだけど。
ひょっとしてエンシェントとか、そのクラス?
「王子!」
ドラゴンの後ろから声をかけられた。
ヘリアルだ。
距離でいえば30メートルほど後方になるが、隠れているわけでも、盾を並べているわけでもない。
まったくの無防備で、ただ立っていた。
なんであいつはドラゴンに襲われない?
前世の創作物の中ではドラゴンは知能が高くて、人間と意思疎通できる個体もいるし、友好関係を築くこともできるという設定のものもあったけど、いま僕の目の前にいるドラゴンもそういうタイプなのか?
「ほんのわずか寿命を伸ばしただけで、結局は魔獣のエサだな」
「ドラゴンとお友達になる方法を教えてくれないか?」
「バカめ、人族の弱々しい呪術しか知らぬ無知な輩め。これこそが呪術の本質なのだ」
ヘリアルの言葉からすると、呪術でドラゴンを従わせているということだろうか?
しかし、呪術とテイムは別物だと思う。
だから、ドラゴンを呪術でテイムはできない――と思う。
少なくともフェヘールの呪術には魔獣をテイムするようなものはなかった。
それとも忌み子と言われていたものを治癒魔法に転換したので、そういうことができなくなったのだろうか?
つまり僕のせいでフェヘールの可能性を奪ったとか――いや、忌み子として周囲から嫌われて憎まれていた、あの状況はよくない。
そんなことを考えていたら、ふと前世の知識が脳裏に浮かぶ。
ゾンビ。
思いついた単語はこれ。
映画やゲームのようなフィクションのゾンビではなく、土着宗教のほうね。
どこまで本当のことかわからないし、フィクションの影響もあるだろうが、民間信仰によるとブードゥー教では死者を蘇らせることができるという。
さらにはゾンビパウダーなる物質があり、それを飲ませると人間を奴隷化できるというような話もあった。
つまり、この世界の呪術にもゾンビパウダーを生成するとか、もっと直接的に生物を奴隷化するようなものがあるのかもしれない。
いや、あるのだ。
でなければ、いまのこの状況を説明することができなくなってしまう。
ドラゴンがいて、すぐ側にいるヘリアルを襲う様子はなく、その命令に従っているように見える、この状況。
他に合理的な説明をできる人がいるのなら、そっちに1票入れるけど。
あと、このドラゴンとヘリアルをなんとかする方法を考えてもらえると実に助かる。
僕は大剣をしっかり握り直す。
一気にドラゴンに向かって全力ダッシュ。
間合いを潰していき――残り5メートル。
「ストリーム・ストライク!」
残りの間合いを一瞬で詰めて突き技を出した。
こんな巨体では頭部はもちろん、胸部でさえ高さがあって直接攻撃するのは難しい。
現実的に狙えるのは足だろう。
僕は膝を狙って大剣を繰り出す。
ガン! と剣に衝撃が走り、両手が痺れる。
やはり龍種の鱗は硬い。
リコイルダメージだけで負けてしまいそう。
剣を振りまわして勝手に自滅って、笑える冗談だ。
いや、冗談じゃないし、笑えない、かな?
「グワーッ」
ドラゴンが吠えながら、僕を噛みつこうする。
予想通りだ。
ミドガルドはヘビのように手足のない龍種だったせいか、腹を空かせて僕を捕食しようとしてていたからか、やたら食いつこうとしてきたが、そもそも道具を使う人間と違って、普通の生き物の最大戦力は歯とか牙だろう。
ハチには針があるし、カマキリには鎌があったり、このドラゴンにもブレスがあるけれども、も、ハチやカマキリと違って強そうな顎に、尖った牙が生えているのだから、通常攻撃は口に決まっている。
そして、僕を噛みつこうとすれば当然、頭の位置が下がるんだよね。
「断頭台!」
首を薙ぐ必殺技――ミドガルドに通じなかったのに、このドラゴンに通じるとは思わないけど、一刀で首をはねることができなくてもダメージが少しでも通ればそれでいい。
首というより、後頭部のあたりに大剣がヒット。
ガン! と火花が刃先で散って、僕の指先、手首、腕のあたりが反動で痺れた。
やっぱりリコイルダメージがキツい。
一方でノックバックもそれなりにあったようだ。
「ガーーーーッ!」
怒ったような咆哮をあげながらドラゴンは頭を起こした。
つまりは胸が無防備に空いている。
「斬鋼撃!」
今度は縦の剣筋で斬りつけた。
この技も必殺技クラスだし、実際ミドガルドには刃が食い込んだ。
しかし、やはりこのドラゴンは龍種としてミドガルドより上位のようで、まったく斬った手応えがなかった。
「HPいくつよ? カスみたいな削りダメージだけで倒せるの?」
ドラゴンは答えてくれなかった。
ただ怒りに燃えた瞳でこちらを睨む。
僕の剣技では肉体に大きな傷を負わせることはできなかったが、このドラゴンのプライドを深くえぐることはできたようだ。
ダメージを稼がず、ヘイトばかり稼いでどうする? という話だけど。
まあ、こっちのリコイルダメージは後方にいるフェヘールの治癒魔法でとっくに全快しているから、じわじわと削っていくことができる。
DPS最低の非効率攻撃だけど、いま考えつくのはそんな手だけ。
そこに逃げていったはずのマトルさんが戻ってきていて、僕に向かって叫ぶ。
「王子、鉄の剣だと、どんな名剣だってドラゴンは斬れません。アダマントの剣だったら斬れますが……」
斬れないのは技ではなく、剣の問題か?
で、わざわざマトルさんがアダマントの剣を持ってきてくれた、と?
鉱山があるんだし、そういえばヘリアルもアダマントの剣がたくさんあるようなことを言っていた記憶もある。
マトルさんの腰にある剣がそうなんだろうね。
「ちょっと借りていいですか?」
「いや……こいつはただの鉄の剣です」
腰に佩いた剣をピシャピシャ叩いた。
「えっ? じゃあ、どうしてここに?」
「王子が無意味なことをしているで、一言、ご忠告を」
「それはありがたいけど……アダマントの剣がないのなら、どうするの?」
マトルさんは黙ってしまった。
「グワッーッ」
ドラゴンが一声鳴いて、こちらに向かってくる。
僕はマトルさんを後ろに押しのけ、剣を構えようとした。
それと同時に視界の端になにか飛んでくるものが写る。
「アダマントの剣ならここにある」
メレデクヘーギ侯爵の低い声が聞こえてきた。
ガキキィィィーーーーーーン!!
次の瞬間、硬いものと硬いものが激突する衝撃音に耳が痺れる。
突っ込んできたメレデクヘーギ侯爵がドラゴンを斬ったのだ。
胸を薙ぎ払われたドラゴンは慌てて後退。
「ふん! ふん! ふん!」
だが、そうはさせまいとメレデクヘーギ侯爵はどんどん前へ踏み込み、間合いを潰して剣を振る。
僕も腰の大剣を外してマトルさんに押しつけ、かわりに受け取ったアダマントの剣を佩いた。
1メートルくらいの直剣で、珍しいことに三角錐のような形状をしていた。
普通の直剣は上下に刃がついているが、これは三方向に刃がついているのだ。
きちんと刃を立てて斬るのが難しいイメージしかわかない剣だが、突き技なら無類の強さを発揮しそうでもある。
ものすごく頑丈なものを力任せで突いても、そうそう簡単には曲がらないだろう。
そんな新しい剣が僕の心を震えさせた。
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